席に戻ると、永塚さんに声をかけられた。

「元谷さん、営業企画へのヒアリングどうだった?」
「寺崎さんに色々情報をいただけたので、ちゃんと研修の目標が立てられそうです。企画書を倉持部長に見せる前に、寺崎さんに内容確認をしていただけるようお願いもしちゃいました」
「情報収集については、寺崎は細かいから問題ないだろう。内容確認のほうは、まずOJTトレーナーである僕に見せてから、寺崎に確認するように」
「はぁ…、分かりました」

 企画書を書くだけなのに、ずいぶん色々な人の確認がいるものだ。まだまだ、私は一人前扱いされてないのかなぁ。でも、変に気合を入れすぎたら、合理的な永塚さんにハネられて終わりだろうし。

「そうそう、この前、永塚さんに教わったカークパトリックの4段階評価ですけど、今日話を聞くのにとても役に立ちましたよ」
「そうか。じゃあ、きちんとした測定可能な目標が定義できるんだろうな。楽しみだ」

集めた情報から測定可能な目標を定め、研修企画を立案する

 永塚さんにお礼のつもりで言った一言が、なんだかハードルを上げてしまった気がする…。私は笑ってごまかすと、パソコンを立ち上げた。溜まっているメールを読んでいるうちに、寺崎さんからメールが届いた。

 仕事が速いなぁ。メールを開いてみると、先ほどのアンケートのデータのほかに、今年度のリリース日程や営業目標と業績のデータも添付されていた。

 私は寺崎さんのデータを見ながら、企画の大まかな流れを考えることにした。

 このマーケティング研修の目的は、戦略的かつ積極的な営業活動が行える人材の育成ということになるだろう。その辺りは全社的な人材開発戦略の中で、倉持部長が決めてくださると思う。受講者は若手の営業担当者になって、営業企画部が選定を行う。研修期間は1日だけ。最終的な目標は業績の向上になるのだろうけれど、それでは広範囲すぎて漠然としてしまう。寺崎さんのご意見も取り入れて、受講者の新商品の売上予算達成を目指したらいいのではないだろうか。それが、カークパトリックの4段階評価のリザルトになる。

 それを達成するために販売促進ツールを、実践でうまく活用できることがビヘイビアだ。うまく活用できるというのは、自分のお客さまである販売店の特徴に合わせて、販売促進ツールの使い方を提案できること。販売店の特徴に合わせるためには、販売店についての分析が必要となってくる。アンケートのデータによると、ベテラン営業は販売店の規模だけでなく、顧客層や消費動向まで踏まえた提案をしているようだった。さらに、同じ売り場に並ぶ他のメーカーの商品との差異化も考えに入れておかなくてはならない。

 つまり、3C(カスタマー・コンペティター・カンパニー)という枠組みで俯瞰し、販売店と自社のWin-Winを狙った提案ができるようになる、というところを狙っていけたらいいだろう。

 ラーニングの目標は、営業担当者が自分の3Cが誰になるのか理解し、分析ができること。そして、分析に合わせた提案を考えられること。研修直後のアンケートと、分析内容や提案内容を提出してもらえば、理解度を測定できるだろう。ビヘイビアの目標は、分析をもとにした提案を実際に下半期の中で何件行ったか。寺崎さんのメールでは、新商品に絞って3件くらいではどうかと書いてあった。受講者の8割が、それぞれ3件ずつ取り組んだという実績が生まれればいいんじゃないかな。リザルトの目標は、受講者の新商品の売上予算達成。期末に営業業績が集計された時点で測定する。ここはやっぱり100%を目指すべきか。

 こうやって考えていくと、営業系の研修は数字で結果が見えるだけに、相当シビアな内容になりそうだ。