この前、小谷専務や青木部長、寺崎さんにインタビューしたときも、これで人材像が作れるのかと思ったら、ブレインストーミングをしてからと倉持部長に言われ、ずいぶん大変だなぁと思ったのだ。でも、今日の話だと、これからブレインストーミングをして、それが第一歩っていうことになる。この前、寺崎さんが考えていた業務プロセスから、考えられる知識やスキルを洗い出せばいいんじゃないかと思っていたんだけど…。なんでこんな大掛かりなことになっているんだろう?

「ちょっと面倒だなと思っている方もいるかもしれません」

 倉持部長の一言に、私は慌ててうつむいた。さっき私が考えていることが顔に出てしまったのだろうか。

色々ある人材像明確化の効果

「人材像というのは、コンピテンシーのようにハイパフォーマーの行動を演繹(えんえき)的に分割していくというものではないと私は考えています。まして、今回はわが社にとって新しい事業であり、ハイパフォーマーは存在しません。ですから、ある程度の枠組みまで分割してからは、帰納的に考える。つまり個々の具体的な事例を挙げていき、それをまとめていくという進め方をしたいと思いますので…」
「ともかく進め方は倉持さんに任せたから、みんな、しっかりやってくれよ」

 青木部長が、倉持部長の話しているところをさえぎって、早くしてくれという様子で言った。倉持部長って、丁寧だけどちょっと話が長い感じがするものね…。おっと、そういうのも顔に出ちゃわないようにしないと。

「では…。先ほど配布したのは、小谷専務、青木部長、寺崎さんから伺ったお話をまとめた資料です。まず青木部長から新部門のミッションやビジョンを簡単にご説明いただきましょう。続いて、準備室に配属が内定している寺崎さんから、想定される業務プロセスについて説明をもらいます。そこから理想の人材像、そして知識やスキルにはどのようなものがあるかを考えていく、という手順で進めたいと思います」
「まず、新部門のミッションだが、直販というお客様と直接的な接点を持つことにより、いつもお客様と共にある商品を開発しお届けすることだ。これはわが社が戦略上、もっとも重要視しているサスティナブル改革プランの一部である。いつもお客様と共にある商品というのは、全社的なミッションの中にも含まれているが、現在の事業体制では十分に貢献できなくなってしまった。そこで直販という改革に取り組むこととなった。こうした考えにいたるまでの背景情報については、資料の3ページ以降を見てほしい。次はビジョンだが、まだ目標売上や顧客数などは白紙の状態。だが、発足して1年後には、直販のお客様からのご要望を反映した新ブランドを作りたいと考えている。これにより、今までの顧客層よりも若い年齢層をターゲットにし、新たなファン層を築いていきたい。ターゲット顧客を若く設定するのだから、社員の方も若手を中心に起用したいと考えている。積極的に企画を立て、推進できる人間が望ましい。私からは以上だ」

 青木部長の話は、小谷専務やなどからのインタビューで聞いたときからほとんど変わっていない。もっともこの話は永塚さんは初耳だろう。配布された資料には、ブランドイメージ調査の結果も入っていた。

「青木部長、ありがとうございました。今のお話の通り、直販部門のミッションやビジョンについてはイメージしていただけたと思います。これらと、もう少し具体的な業務内容に基づいた理想の人材像をつなげていきます。新部門のメンバーには高いモチベーションと業務遂行力が必要です。ミッションやビジョン、それらと一貫した人材像を明確に示していくことで、評価も明瞭に行えますし、モチベーションや責任感を生み出す効果があると言われています。また、今日の結果は、理想の人材像をどのように育成・確保していくかという人材戦略へとつながることになるでしょう」

 また倉持部長の解説が入った。そうか、人材像ってなんだか色々な効果があるんだなぁ。