青木部長が立ち上がった。

「倉持部長、みんな、今日はご苦労だった。みんなには、引き続き他の業務プロセスについても考えもらうことになるが、あとは寺崎を中心にニューリーダー研修のメンバーも交えて取り組んでほしい」
「倉持部長のようにスムーズにはできないと思いますが、ご協力宜しくお願いします」

 寺崎さんが立ち上がって頭を下げる。青木部長と倉持部長が、「何か困ったら、またご相談ください」などと話しながら会議室を出て行った。寺崎さんはデジカメで、ホワイトボードを写真に撮っている。

「寺崎さん、その写真のデータ、私も欲しいので、後でいただけますか?」
「OK、今日の参加者には送るつもりだよ」
「写真撮り終わったら、私、片付けておきますから」
「そう?」

倉持部長の教育的配慮が隠れていた

 私が寺崎さんと話している間に、永塚さんはもう片づけ始めてしまったので、私は慌てて手伝いを始めた。

「今日の人材像の策定会議、ずいぶんと手が込んでいたな」
「そうですね。私、最初は意味が分からなくて…。難しかったです。でも倉持部長の話を聞いているうちに、なんとなく分かってきた気がしてるんですけど…」
「それは僕らへの教育的配慮だよ。だから、あんなに細かく説明してくれてたんだ。つまり、人材開発部のメンバーとして、このくらいの知識を持ってファシリテーションができるようになれっていうこと」
「えっーー!!」
「そこには気がつかないわけだな…」
「それは無理でしょう!」

 私と永塚さんのやり取りに、寺崎さんが笑った。

「じゃあ後は宜しく。またお世話になると思いますけど…」
「はい、お疲れ様でした」

 寺崎さんを見送り、私は付箋や書き込みがいっぱいあるホワイトボードに向き合っていた。付箋を剥がしながら、永塚さんの教育的配慮という言葉の意味を考える。人材開発部にも、業務プロセスや人材像、必要な知識・スキルが存在しているっていうことだ。明文化されてはいないけれど、倉持部長の頭の中には存在している。今日は、永塚さんや私のために必要な知識やスキルを、お手本として見せてくれたっていうことなのかな。

 一回のお手本を見たからといって、すぐにできるようになるとは思えない。でも、期待があるからこそ、こういう機会に参加させてくれたわけで…。ともかく、がんばっていこう! 身が引き締まる思いがした。