「課長、元谷さんがフリーズしてます」

 永塚さんが私の現状を岩松課長に報告した。

 今、メイン担当っておっしゃいましたよね? そりゃ、フリーズしちゃいますよ。だって私、まだ新人だよ?

「驚かせてしまったかなぁ。でも4月になったら、元谷さんも新人じゃなくて先輩になるんだ。今年度はずいぶん色々な仕事を経験してもらったし、新人のお手本となるような先輩として、引き受けてくれたらと思っているよ」

 岩松課長は、笑顔で私にそう言った。

「私、新人研修やります」

「私も岩松課長の意見に賛成です。研修を企画するためには、受講者情報の収集・分析が必要ですが、新人は入社していませんから、なかなか情報収集が難しいのです。その点、元谷さんなら年代的に変わらないですし、自分がこの1年間で分かりにくかったことや、どうやって成長したのかなどの実体験を研修に反映できれば、よい研修が企画できると思います」

 さらに追い討ちのような倉持部長のお言葉。

 4月には先輩になると言われれば、確かにそうだ…。それは分かっている。しかし、お手本となるような先輩なんていわれると、ますますハードルが上がってしまう。私はすぐに応じられずに、困ってしまった。助けを求めるように岩松課長の方をちらっと見る。

「元谷さんに一人で全部やれという訳ではないんだよ。今年度の新人研修も、永塚君が一人で考えて、一人で実行したわけじゃない。困ったら人材開発のみんなで考えて、アイデアを出しあえばいい。インストラクターだって、自分がやるのではなく、他のメンバーに頼むという手もあるし…。他の研修と比べると新人研修は期間が長いけれど、格段違いがあるわけではない。…どうかな、元谷さん?」
「僕が今年度やったことの引継ぎをちゃんと行って、それ以降もサポートしていきます」

 岩松課長のフォローに、今度は永塚さんの援護射撃が加わった。

 今年度の新人研修では、同期一同は永塚さんにビシバシ鍛えられた。お陰で、配属後に無事、仕事をスタートすることができた。あんな風に、私にできるだろうか。私がメイン担当として研修の企画から経験したのは、単発1日の研修だけで、1カ月にもわたる新人研修とはずいぶん違う。でも、この9カ月間、二人の上司と永塚さんは、私を人材開発に必要な色々な場面に立ち合わせてくれた。こういうチャレンジをくれるのが、うちの部の厳しさであり、育て方なんだろう。

「わかりました! 私、新人研修やります」

 私はそう宣言して、倉持部長をまっすぐに見た。部長がうなずいてくれる。隣で岩松課長も。あれ…永塚さん、今、ちょっと笑った?

「では、がんばってください。これで今日の会議を終わります」

 部長がそういって、その日の会議は終了した。

 会議が終わり、私は席に戻った。ああ、さっき勢い余って「やります」宣言してしまったことが、ドヨーンとのしかかってきた。はっきり言って自信がない。相手は、まだ何も分かっていない新人なのだ。最初が肝心などとも言うし…。

「元谷さん、怖い顔してるよ」

 向かいの席から声をかけてきたのは永塚さんだ。

「だって新人研修とかいって、責任重大じゃないですか…」
「とりあえず引継ぎはいつやろうか。基本的には今年度を踏襲すればいいわけだし、そんなに難しいことじゃない。4月は忙しくなるとは思うけど」
「引継ぎ、早めにお願いします。今からでもいいくらいです」
「そんなに焦らなくてもいいよ。明日の10時から12時くらいまででどう?」
「大丈夫です。宜しくお願いします」