私は軽く頭を下げて、自分のカレンダーに引継ぎの予定を書き込んだ。明日の引継ぎまでの間に、新人研修で何をやったか振り返っておこう。担当だった永塚さんには言えないが、実は何をやったか細かいことはもう忘れてしまっている。私は慌てて新人研修で使っていた資料を取り出し、目的、目標、カリキュラムなど大まかなところから確認を始めた。

 研修を受講する側だった頃は、最初に目的や目標が書いてあることに対して、それほど重要性を感じていなかった。でも、今は違う。研修を企画するときには、まず目的・目標から押さえていかないと、無意味で形だけの研修になってしまうということを知っている。そういえば、永塚さんは折に触れてこの目的・目標に立ち戻るように指導してくれていたなぁ。

目的:鶴亀魔法瓶の一員として活躍できるようになるために
目標:社会人の基礎となるスキルを習得し、自社を知り、やる気を持って仕事のスタートを切れるようになること

引継ぎの準備は自分が受けた研修の振り返りから

 目的はこのままでいいと思う。目標はこれじゃ測定しにくそうだから、もう少し具体的なものを作ったほうがいいかも。

 研修を企画するときは、ビジネス戦略に基づき、理想となる人材像から知識・スキルを洗い出して、目的と目標を考えていくのがセオリーだとすると…。この新人研修についても、この前と同じように知識やスキルの洗い出しが行われていたはず。それらを理解しやすいよう順番に並べ、どのような活動を通じてできるようにしていくか考え、組み立てられたのがカリキュラムになっているのだろう。

 私の手元にはカリキュラムしかないから、どのような意図でこうなっているか、今のところ推測するしかない。明日になれば、永塚さんから手品の種明かしのように説明してもらうことはできるだろうけれど、簡単に教えてくれるとは思えない。永塚さんの性格からして「なぜだと思う?」とか「どう考える?」とか、質問攻めにされるに違いないのだ。引継ぎの時間を明日にしたのだって、それまで自分なりに考えておけということなのかも…。

 私は、研修を作るときの手順とは逆に、使用したテキストやノートを見ながら、やったこと、分かったこと、身につけられたことを書き出してみることにした。それから、永塚さんが裏でどのような準備をしていたかも考えておこう。

 ざっと洗い出してみると、思っていたより色々な項目があったし、重複もしていた。新人研修でこんなに色々なことを学んでいたのかと、自分でもびっくりするくらい。事前に振り返っておいて良かったよ。うっかり永塚さんに向かって、「こんなに色々やってたんですね」とか言ってしまうところだった。