中村 文子
ダイナミックヒューマンキャピタル代表取締役

『教育効果測定の実践』 ― 企業の実例をひも解く
『教育効果測定の実践』 ― 企業の実例をひも解く
堤 宇一 編著 / 木村 寛、早川 勝夫、柳 美里、和田 修一 著 / 日科技連出版社 / 2,940円(税込) / 208ページ

 この分野においては世界的第一人者であるドナルド・カークパトリック氏の「レベル4フレームワーク」があまりにも有名だ。レベル1はリアクション(参加者の満足度)、レベル2はラーニング(習得したか)、レベル3は職場での行動変容、レベル4はビジネス上の成果。研修の成果は、参加者の満足度だけで終わってはならず、研修で学んだことを実践し、その行動変容がビジネス上の成果に結びついて、初めて意義がある。この考えに基づき、企業において実践した事例が詳細に紹介されている。

 レベル2、レベル3の結果を高めるためには、インストラクショナルデザインが両輪のように密接に関連している。このため、インストラクショナルデザインの観点からの働きかけも大きく、興味深い内容である。つまり、研修で目的としている知識やスキルなどの習得率を高めるには、研修をどうデザインするかの影響が大きい。また、職場に戻ってからの実践率を高めるには、参加者だけではなく、周囲の人の巻き込みを含む職場環境へのアプローチも欠かせない。一例として、ロジカルシンキングを用いたコミュニケーションスキルの研修について、現状把握・分析からスタートし、どのようにインストラクショナルデザインを変え、どのような成果につながったかが紹介されている。

 さらに後半では、より広範囲な教育効果測定の実践を通じて「組織風土改革」に取り組んだ例が紹介されている。新規事業の事業プランなどを取り扱う本部長研修、ある企業の営業組織内での新任チームマネージャーへの研修などの事例が取り上げられている。いずれも、置かれた状況や具体的な取り組み内容も詳しいので、実践の具体的イメージが湧く。各事例の現状分析だけをまず読み、自分自身がそのプロジェクトの担当だったらどうアプローチし、どういう提案をするかを考えてから、後半を読み進めるという読み方もいいのではないだろうか。

 推薦文を書いていらっしゃる熊本大学大学院の鈴木克明教授の言葉に、「この分野は米国に40年は遅れをとっている」という池田央先生の言葉が紹介されている。40年とは衝撃的な数字である。著者によると、こういった教育効果測定、インストラクショナルデザインなど「人財育成業務が科学的アプローチで行われるようになると、勘と経験に大きく依存していた従来の企業内教育業務に対する見方や考え方が変わると予測している」ということである。こうした取り組みを通じて劇的に加速してほしいと切に願う。

関連図書

『Implementing The Four Levels』 A Practical Guide for Effective Evaluation of Training Programs
Donald L. Kirkpatrick, James D. Kirkpatrick 著 / Berrett-Koehler (Short Disc); illustrated edition版 / 3,240円(税込) / 153ページ