ミーティングスペースについたが、私は何を言うべきか分からなくて黙っていた。永塚さんは私が何かを言い出すのを待っていたようだが、諦めたのか先に口を開いてくれた。

「さっき滑ったと言っていたが、あのコーナーの目標は何だ?」 「目標は…、新人研修の流れをなんとなくつかんでもらうこと。やる気を持って新人研修に臨める状態になることです」
「では、その達成度合いについてどう思う?」

 思い返してみると、目標に関係する部分はスライドをきちんと作っていたし、何より時間をかけて企画したのは自分なので、比較的スムーズで問題がなかったと思う。

受講者中心主義の観点が欠けていた

「そこについては、それほど問題はなかったと思います。新人さんたちもちゃんと聞いてくれたように感じましたし、初日なので元々やる気はありますから…。そういう意味では、それ以外の部分が上手くできなかったと」
「それ以外とは?」
「まず、永塚さんを紹介するタイミングを忘れていました。申し訳ありません。自分のことで精いっぱいでした。細田さんにフォローしていただいて、助かりました。あとでお礼に行きます」
「それだけ?」

 それだけではないような気がした。だけれど、永塚さんにどう説明していいか分からない。

「なんていうのかなぁ…もっと、なんていうか…全体の空気をつかみたかったっていうか。…最後に永塚さんが冗談っぽく、『不審者じゃないんで』って言ったとき、いい感じだったと思うんですよ。もっと早いタイミングで、ああいう感じが出せたらなぁって…。どうしたらできるんでしょうか」
「どうすればいいという正解があるわけではないが、受講者中心主義っていう観点を思い出してほしい。元谷さんが、昨日は眠れたかと問いかけたとき、普通ですという答えをきちんと受け止めていなかった。眠れなかった人もいるんじゃないかって、無理矢理まとめただろう。あれは、昼休み明けの座学で眠くなりそうな内容だからと予防線を張ったつもりなんだろうが、うまくいったとは言い難い」

 確かに期待していた答えが返ってこなくて、焦って余計強引な感じになってしまった部分だ。

「発問したからには、受講者の答えをきちんと受け止めないといけない。それが受講者中心だよ。そういう積み重ねが、受講者からの信頼を生むんだ。元谷さんが自己紹介で2年目だと言ったところの反応、覚えてる?」
「ちょっとザワザワっとしましたよね」
「なんでだと思う?」
「2年目なんかに教わるのかぁ? とかじゃないでしょうか。私としては、後でどうせバレるだろうから、先に言っておいてフレンドリーな感じを演出したかったんですけど」
「それは違うんじゃないか? むしろ2年目で大変そうな仕事を任せられてるっていうことに驚いたり、自分も1年後に同じようにできるのか不安になったんじゃないかと思う」
「それは、私自身任せてもらって驚いていますけれども」
「反応が分からなければ、聞いてみればよかったんだ。どうしたのとか。ともかく落ち着いて、受講者ときちんとキャッチボールすることだ」

 そうか。今日の私には全然余裕がなかったんだ。

「明日のeメール講座、あれだけ時間をかけて、一方的に説明するんじゃない内容を考えたんだ。しっかり相手を見ながらやればできると思う」
「…はい」

 気を付けなければならない点が同時並行でいくつもある。余裕なんかないけれど、もう少し落ち着いて新人の皆の様子を見ながら進めていけるように頑張らないと。