リップシャッツ 信元 夏代
アスパイア・インテリジェンス社 代表取締役

 自分の好きなことを仕事にできる魅力から、起業を考える人が増えています。しかし、本当に成功する起業家は10人に1人ともいわれ、事業を興すということは並大抵のことではありません。起業が、単なる願望や思い付きではなく、強い志を持続していくことができるのか、自分の「起業力」を今一度確認してみてください。本連載コラムでは、起業の心構えから事業運営のコツ、起業の際必要となるビジネスプラン策定のポイントや失敗事例などを紹介しながら、成功するアントレプレナーへの道のりについて考察します。実際に起業するかどうかは別として、自立型人材のヒントになるはずです。

好きなことを仕事に…?

 起業を目指す大きな理由の多くにまず、「自分の好きなことを仕事にしたい」というものが挙げられます。「好きこそものの上手なれ」といわれる通り、自分の好きなことは、イコール得意なこと、である場合は確かに多いでしょう。ですから、「得意なことで起業すればきっとそのビジネスは成功するに違いない」と思うのも、ある意味うなずけます。しかし、現実はそう上手く事は運びません。趣味として、或いは副業として好きなこと、やりたいことを行っているうちは良いかもしれません。しかし、本格的に起業し、それを成功する事業として長きに渡って継続させていくには、さまざまな苦悩や思いがけないハプニングなどがたくさん待ち受けています。

 起業したての頃は、大企業と異なり、会社というバックなしに自分というブランドのみで仕事をしていくのですから、「会社の信用」=「自分個人の信用」です。「自分の好きなことを仕事にしたい」→「起業しよう!」と安易に考えてしまってはすぐに失敗してしまい、信用を回復するのも難しいでしょう。また一般企業などで、他で稼いでいる事業がある場合は「好きなこと」をやっている余裕・予算があるかもしれません。しかし、起業家にはそのようなラグジュリーはありません。予期せぬ困難に立ち向かい続け、険しい山道を越えていくだけの決意はあるでしょうか?

 さらに重要なのは、「起業は自分にとって最良のオプションである」という考え方だけでは事業は成功しない、ということです。「何のために事業を興すのか」「その事業を興すことで、誰にとって、何が良くなるのか」 ―― しっかり見据える必要があります。起業する際、どうしても人は熱病にかかったか、初恋でもしているような状況になりがちです。つまり、自分自身にとっての目的にばかり目が行ってしまい、第三者の立場に立って冷静に状況分析することを怠ってしまうことが多いのです。

 養老孟司氏は、 「仕事というものは、世間に空いている穴を埋めるものだ」と言っています。自分が好きなこと、得意なことで仕事ができるならば、より良質のもの、高付加価値が提供できるかもしれません。しかしそれは、「社会から求められていることでしょうか?」「『世間に空いている穴』を埋めることが出来るような事業内容でしょうか?」 ―― 既に誰かが埋めてしまっているようなビジネスだとすると、発展性はあまり期待できないでしょう。