経験学習サイクルで社員の成長を促す

吉田:ヤフーの人材育成のキーワードは「経験学習」です。デイヴィッド・コルブという研究者が提唱した「経験学習モデル」を概念に取り入れています。この概念の根本は、「業務>経験>内省>持論化>業務…」というサイクルを通じて人が成長していくというものです。机の前に座って研修すれば人は成長するかというと、当然きっかけにはなると思いますが、本質ではないと思います。人の成長は7割が経験から、2割が上長をはじめ周囲から受けた薫陶から得られるもので、研修による効果は1割だという話がありますが、その通りだと思います。ですので、経験学習なのです。そして経験学習モデルのなかで最も重要な要素が振り返りからある種の教訓を得る、「内省>持論化」のプロセスです。このプロセスなくただ業務を経験していっても、多くの気づきは得られないでしょうし、大きな成長も見込めません。

 「内省>持論化」のプロセスをいかに実務に組み込むか。われわれがこの観点で取り入れたのが部下と上長が1対1で行う1 on 1ミーティングです。1 on 1ミーティングは一週間に一度、一人30分間、必ず行っています。このミーティングでは部下の一週間の業務を振り返り、目標達成に向けた課題を共有し、どのようにすればそれを乗り越えていくことができるかを話し合います。ヤフーの全てのレイヤーで行っているので、1週間に5000個の1on1ミーティングが実施されています。

 1on1ミーティングでの上長の大きな役割の一つは、部下の内省の促しです。そこでヤフーでは役職者に対してコーチングを導入しています。部下が対峙した課題に対して、上長は単純に答えを示すだけではなく、部下本人が自己解決できるように促していく。最終的に自分自身の力で物事を進めていけるようにする。そのためには、ティーチングだけでなく、コーチングも取り入れていこうという考え方です。ビジネスコーチ社をはじめいくつかのパートナーに協力いただき、コーチングの導入を進めています。

 さらに、1on1ミーティングのクオリティを上げていくためにアセスメントを定期的に行っています。上長と行っている1on1ミーティングが部下にとって効果的なものなのか、しっかりと話をさえぎらず聞いてくれているのか、威圧的にならず話しやすい雰囲気を提供してくれているかなど、15項目程度の設問を5段階で評価してもらっています。アセスメントの結果は、ただ単純に報告するのではなく、1時間程度のワークショップを開催し、どうすれば1on1ミーティングのクオリティが上がるのかをディスカッションさせるなど、内省する機会の提供をここでも心がけています。

 また、私たちは経験学習モデルの概念を広義にとらえ、社員のキャリア開発も重視しています。社員一人ひとりの「人材開発カルテ」を作り、その社員が今後どのようなキャリアを積んでいくべきなのかを討議する「人材開発会議」を全社員対象に年一回開催しています。カルテにはその人の強み、成長課題、3年後のなりたい姿、そのために必要となる直近一年の経験デザインを、本人>上長の順番で記載します。カルテ記載内容のすり合わせは毎週行っている1on1ミーティングを利用して行います。カルテのすり合わせが完了すると、上長は関係者を招集し人材開発会議を開催します。人材開発会議ではカルテをベースに、今後対象者がどのようなキャリアを積んでいくべきかを討議します。人材開発会議で結論付けられた育成方針は、再び1on1ミーティングの場で本人にフィードバックされます。

 この育成方針に沿ったジョブアサインをいかに戦略的に行えるかが課題となります。ヤフーでは人材開発会議の結果を踏まえて、全社の戦力編成会議を半期に一度経営層が行っています。また、年に一度社内の全てのポジションに異動希望を申請できるFA制度があり、面接が通れば希望部門へ異動することができます。FA制度に先駆けて社員向けのジョブフェア(業務説明会)を行っていたりもします。3年を一周期に大きくジョブをローテーションすることで、社員一人ひとりに様々な経験を積んでいってもらいたいと考えています。

細川:御社はエベレストの山を登っている気がします。高い目標を毎年立てて、登るにあたっては様々な課題を一人ひとりが解決しながら登っていく。スピードをもって登らないと意味がない。山登りに関して、チームで取り組み、かっちりとしたマニュアルはないけれど、柔軟に対応している。一人よりも上長と一緒に山登りしていこう、そうしながらみんな力をつけようという感じでしょうか。

吉田:そうですね。リーダーにはその時々の場面に応じてりスタイルを変えて欲しいと伝えています。普段はメンバー一人ひとりに委ね、彼らが自分の力でより速くより高く目標達成をすることを下支えして欲しいと言っています。一方で急事であれば、自らが課題解決に率先して臨んで欲しいとも。上長であるリーダーには難しいお願いをしているかもしれません。人材開発部門としては、上長のスキルアップにより多くのリソースをかけていきたいと思っています。