誤解を招きやすい非言語メッセージ

 先の例に記した、日本人の気まずい時の笑みは、まさに「高コンテクスト」文化によるところが大きいのです。

 アメリカ人が質問した内容に対し明確に回答できないとき、あるいはミーティングのような公の場ではっきり言ってしまっては「和を乱す」と考えられる際に、「低コンテクスト」なアプローチで言葉での直接的な回答を求められると、「空気を読む」という暗黙の了解が不意をついて破られたことに驚き、日本人は困ってしまうのです。

 はっきり回答できないことへの気まずさを感じながらも、しかしそこで嫌な顔を見せると周囲に不快感を与えて平穏が乱れますから、「笑み」というポジティブな非言語メッセージが発せられるのです。その意をあえて言葉にするならば、「今この場で答えられないことを察してもらえませんか?」です。

 「It’s difficult」も同様で、せっかく提案してくれた内容を、「それはできません」とぴしゃりとつき返すのは相手にも失礼にあたり、調和が崩れることを恐れるのです。そんな「高コンテクスト」文化圏の人が、相手への配慮から、曖昧な「難しい」という表現を使うことで、「ダメとはいいづらいので、『難しい』と言う表現でギリギリ許してください。あとは察してくださいね」という意を伝えようとしているのです。

 日本人ならば、「それは難しい」と言われれば、「却下」の意であることは容易に察することができます。しかし、「低コンテクスト」な文化圏の人は言葉通りに受け取りますから、先の例のように「ではボトルネックを解消すれば実現可能なんだな。チャレンジングだ!やる気が出る!!」と逆効果になってしまうのです。

 このように、異文化間のコミュニケーションにおいて、非言語メッセージは誤解を招きやすいものです。このようなコミュニケーションギャップによる誤解を防ぐためには、極力、「高コンテクスト」の人々は言葉を使って表現するようにし、「低コンテクスト」の人々は相手の非言語メッセージに目を向けるようにするとよいでしょう。

リップシャッツ 信元 夏代(りっぷしゃっつ・のぶもと・なつよ)

アスパイア・インテリジェンス社 代表取締役
ブレイクスルー・スピーキング代表

リップシャッツ 信元 夏代  早稲田大学商学部卒。ゼミ専攻は「異文化コミュニケーションとビジネス」。NYUにてMBA取得。1995年に渡 米後、伊藤忠インターナショナルにて鉄鋼、紙パルプ業界の営業・事業開発に携わる。その後マッキンゼーに て消費財マーケティング・事業プロセス改革などの業務に携わった後、2004年に、事業戦略コンサルティング 会社のアスパイア・インテリジェンス社を設立。
 TEDxTalk スピーカー。2013年、2014年春季トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテス トでは、日本人初の地区大会優勝2連覇を果たしている。この経験を受け、2014年9月にブレイクスルー・スピ ーキングを設立。グローバルに活躍したい日本人のためのグローバルパブリックスピーキングのE-learningプ ログラムを中心に、個人コーチングセッション、企業内研修等も行う。
BREAKTHROUGH Speaking: https://www.btspeaking.com

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。