ビジョンはイノベーション文化をつくる

 ビジョンは、イノベーションの文化を組織内につくる上でも重要な役割を果たします。

 イノベーションにはイノベーションを生み出す組織風土、カルチャーが必要です。イノベーションを起こすための土壌がないところでイノベーションはなかなか起こりません。たとえば、前例のない挑戦や実験を必須とする点でイノベーションには失敗がつきものですが、失敗を許さない組織風土では新しいことにチャレンジする人が出てきません。

 筆者の経験でも、日本の既存企業においてイノベーションを阻害する要因としてよく遭遇するのが、イノベーションを生む組織風土が養われていないという問題です。

 すなわち、失敗を許容する文化がない。大きな変化を良しとしない。管理志向が強く、仮説実験というイノベーションに必要とされる考え方への理解がない。組織が縦割りで縄張り意識が強く、既存の枠組みを越える新しいアイデアが出てこない。こうしたイノベーションの阻害要因は、企業文化に関わる問題です。

 ドラッカーは、既存企業がイノベーションを起こすには、「インセンティブ、報酬、人事的意志決定、会社の方針など、すべてのものが起業家的行動に報いるようにし不利にさせない」ようにしなければならないと指摘しています。イノベーションを起こすには、イノベーションを育む組織風土とそれらをプロセス面で支える組織運営の仕組みや評価制度、人材育成制度などが必要です。

 イノベーションを生む組織文化は一朝一夕にはできませんが、パワフルなビジョンは人々の考え方と行動を変えるきっかけとモチベーションを生みます。イノベーションリーダーは強力なビジョンを掲げることで既存の組織文化や制度、仕組みをゆさぶり、イノベーションが活性化する土壌へと変化させます。

 方向性がばらばらでヒット商品が生まれずに苦しんでいたアップルを立て直す際に、CEOに復帰したスティーブ・ジョブズ氏がまず取り組んだのもイノベーションを生むカルチャーへの転換でした。ジョブズはクリアなビジョンを打ち出すことで、人々の意識と組織文化を変えイノベーションが生まれる土壌を作りました。その組織風土の改革が後のiPodやiPhoneらのイノベーティブな商品が生まれるきっかけを作ったのです。

 星野リゾートは、「リゾートの達人になる」というビジョンのもと、経営が立ちゆかなくなったホテルや旅館の運営に参画し成果を上げています。星野リゾートは、目指すべきビジョンを示しビジョンを具体的数字に落とし込んだ指標を共有することで、イノベーションを自律的に生む組織的な文化や土壌を作ることに注力します。ビジョンを明快にすることによって、働く人たちが自分たちでコンセプトを考え、顧客を満足させる質の高いサービスを行い、自ら持続的に成長する力を作り出す支援を行うのです。