最後にお伝えしたいのは、トレーナー皆さんが持っている仕事の育成軸です。これはトレーナー本人の長年の経験で培われた仕事をうまくやり遂げるための「持論」や「流儀」、「心得」です。トレーニーがいくつかの「成長課題」に直面する際、トレーナーの持つ暗黙知が突破のきっかけ、ヒントになるはずです。往々にしてトレーナーはごく自然に、無意識で振る舞える能力なので、言語化するなどしてトレーニーにうまく伝える必要があります。

 トレーナー自身の特性やスタイルにフィットする形で身についた力は、そのままではトレーニーにはなかなか身につきにくいかもしれません。タイプ、伝え方を考えながら根気よく伝えて課題をクリアしてもらいたいものです。

 OJTの後期に入る時期(11~12月)には、トレーニーもそれなりに与えられる仕事の量・質ともにぐんとレベルが上がってきます。課題の多くはトレーニーが今までの生活で直視しなかった癖や習慣に基づくものであり、本人も「改善」や「工夫」レベルでは容易にクリアできるものではありません。本質的なところから要因(原因)を堀り下げて、根本的にやり方を見直す必要があります。ここでトレーナーとトレーニーの深い向き合いの中で課題をクリアしてほしいものです。

 この時期の課題は今述べましたように「分かってもクリアするまでにそれなりの一定の時間が必要」なものが多くあります。

・できていないことに気づく
・努力してできるようにする
・無意識的にできるようになる

この階段を登りきれるまで根気よく見守り、指導・支援を行ってほしいものです。

 5月から続けてきた「新入社員OJT」に関しての連載はこの27回で終了です。最初に博報堂におけるOJTの取り組みを紹介し、次いでOJTのコンセプトや大切な要素を紹介。そして最後に、トレーナーが(もちろんトレーニーも)苦労するOJTの課題について紹介してきました。

 2014年1月に出版した『「自分ごと」だと人は育つ~博報堂で実践している新入社員OJT』(日本経済新聞出版社)の内容をベースに、育成担当者、そしてトレーナーに向けて、必要最低限の要素、そして今年度の実践から得た知見を更新して書いてきました。特に今回の内容は書籍には書いていなかった内容です。

 新人の育成に関して非常に理屈っぽく書いてはいますが、うまく育てているトレーナーにとってごく当たり前の行為を言語化、フレーム化したものだと言えます。これを演繹的に理解して指導することはとても難しいかもしれません。しかしながら、今まで取り組んできた実感としてはやはり何より新人思いの熱心さがやはり育成には一番効果があると思います。

 特に今回述べたような気持ちの面で苦労してもあきらめずにトレーニーを指導、支援するトレーナーは最終的にチームワークが(ある瞬間やきっかけを経て)芽生え、それを感じられるように思います。

 日々の業務繁忙の中、高度・高速の業務環境下で新人を育てることは至難の業であり、熱意を注ぐトレーナーには頭が下がる思いですが、こういった育成の気持ちが伝わり、次に受け継がれることを願います。

 これまでお読みいただいたみなさまに御礼申し上げます。