朝9時にスタートする研修の20分前くらいから、受講生たちが、ポツポツと現れます。

 入り口で自分の座席を確認して、4人掛けのテーブルに自分の名前を見つけて静かに座り、おもむろにパソコンを開けたり、スマホチェックをしたり……が始まる。次の人は、ろくにあいさつもせずに静かに座り、スマホチェック。3人目も同じ、もちろん4人目も。シーン。これは、男性だけの管理職向け企業研修で、私が18年間見続けてきた風景です。

 「皆さん、おはようございます。朝から静かでびっくりです! 同じテーブルの人にちゃんとあいさつしましたか? この研修では、講師の私の話から気付き、学んでいただくことも大切ですが、同席したメンバーたちと本音で話し、共感しあい気付くことがさらに大切です。席替えをしながら、明日帰るまでにクラス全体が信頼関係でつながるようになれたらと思います。まずは、今、座った4人のメンバーがお互いを知り合う時間にしましょう。では、最初に席に着いた方が、リードしていただいて、4人で簡単な自己紹介をし合ってみてください。話す方も聞く方も笑顔でリラックスしてお願います。4人全員分で、5分くらいでやってみてくださいね」

 私のナビゲーションで、やっと、自己紹介が始まりますが、会社の所属や、自分が担当する仕事の話ばかり。個人的なことを話す人はほとんどいません。自己紹介の内容にほかの人はさほど興味もわかない様子。4人で5分の時間を持て余してしまうグループすら、ちらほら。これまた、よくある男性だけのクラスの傾向です。

男性と女性の1日に発する単語数の違い

 2000年当初、私が担当する男性管理職研修の受講生は、45歳以上50代の方でした。最近は30代・40代が中心です。また、相変わらず50代の男性だけの役員講演などもやっています。しかし、朝の風景は本当にほとんど同じです。2000年に、この講師の仕事をし始めた頃、私は、「どうして男性は、同じテーブルに座っている人にあいさつもろくにしないんだろう?」「研修が始まるまで、何も話さず黙っていられるんだろう?」と疑問を感じました。女性だけのクラスでは、一瞬にして、テーブルは盛り上がり笑顔があふれてきます。それに女性は、向き合った4人テーブルで、あいさつもせずに無言でいることの気まずさに耐えられないからです。

 しばらくして、女性が1日に発する単語数が平均20,000語なのに対して、男性は7,000語程度。つまり女性は男性の3倍も言葉を発して生きているというアメリカの大学の研究結果を知りました。また、女性は20,000語以上発せないとストレスを感じ、男性は7,000語以上発することを要求されるとストレスを感じるということも知り、なるほどねと思うようになりました。

 男性は心を開いてリラックスしたコミュニケーションが苦手な人が多いというのは、しかたがないのかもしれません。公開セミナーや企業研修の朝からシーンとした風景もしかたがないのかもしれません。しかし、会社の中がこの状況だったらどうでしょうか? チームメンバーや、後輩と一緒に仕事をしていく場面、新人教育などの場面で、このシーンとした状況がベースになっていたらどうでしょう?

 実は今、男性のコミュニケーション能力の低下が、大きな問題になりつつあります。昭和の軍隊時代は、寡黙で実直、感情を抑え込んだ無表情の兵隊が男性の目指す姿でした。しかし、今やダイバーシティ時代。多様な人たちが一緒に働くうえでは、周りの人たちとのコミュニケーションは最も重要です。さらに、リーダー、管理職のポジションにおいて、コミュニケーション能力の不足は致命的な問題になります。