「うちの会社は古き良き昭和の社風なのですが、今のところ業績も横ばいくらいで悪くはないので、社員をあまり刺激したくないんですよ。寝ている子を起こすようなまねはしたくない。気が付かないうちにダイバーシティや働き方改革が進んでいたというのがいいんですがね」

 「いや~、ダイバーシティも働き方改革も必要なことはよく分かりますよ。でも、私も含めて50代は講演や研修を受けたって変わりませんから、その層には何やっても無駄でしょう。若い世代を対象に進めていこうと思っています」

 「植田先生は、うちの会社が遅れているというけど、周りの企業が本当に進んでいるのでしょうか? 新聞とか雑誌とかで取り上げられている会社は、ごく一部で、しかも大企業ばかり。うちのような中小企業には、まだ早いというか、その前にやるべきことが山積みですよ」

 「セクハラだ、パワハラだと最近は騒ぎすぎですよね。もっと昔のようにおおらかな感じがいいと思うんですけどね。先生、この後、飲みにケーションはどうですか?」

 今年は、いつにも増して経営陣&管理職向けの「経営戦略としてのダイバーシティ&働き方改革」の講演の依頼が数多くあり、新しい企業の講演にも登壇する機会がありました。上記は、その講演直後に、取締役や人事部長から出た言葉です。まさに、残念ながら「ダイバーシティ推進ストッパー賞」を贈りたい人たちです。会社を船に例えると、いずれもまさに「船長」の役割を担っているポジションの方々です。私を講演に呼んだ事実だけが欲しかったのか、そこから先の行動へとつながっていません。私の登壇に骨を折って頑張った、ダイバーシティ推進の女性担当者はどんな気持ちでいるのか心配です。

 私に、経営陣&管理職に対する「働き方改革&ダイバーシティ」講演を依頼する企業は、30年以上の歴史と組織風土を持つ会社、船に例えると、昭和企業体質により業績に陰りが見えてきている「昭和タイタニック号」ばかりです。この10年間、いろいろな会社を見てきました。昭和な組織体質による問題(パワハラ、セクハラ、コンプライアンス違反)がどんどん露呈して、会社の将来に危機感を持って、いち早くダイバーシティ推進、働き方改革に取り組んだ会社もあれば、業績の伸びは鈍化しながらも、問題が少なかったためにかなりのんびり構えていた会社もあります。

 この数年、私が新規に登壇する会社は後者が多くなってきました。時代の変化に取り残されつつあることに、政府が「働き方改革」を提唱し始めた頃から、焦り始めています。ただし、焦り始めているのは、船に乗っている乗組員、その中でも女性社員たちで、舵を取る経営陣である「船長」ではありません。

のんびり「昭和タイタニック号」の乗組員は真面目な兵隊さん

 「うちの会社の社員は真面目で素直というか、言われた通りにひたすら頑張るタイプが多いんです。半面、自分から意見を言ったりするのは苦手で、どちらかというと受け身で消極的です。質問などされたら焦って答えられないかもしれませんので、お手やわらかにお願いします」

 「昭和タイタニック号」の企業を訪問すると、取締役や人事部長などから事前打ち合わせで聞く言葉です。しかも少し自慢気に語る姿に、私は非常に驚きます。なぜなら「真面目で素直で消極的で受け身な社員 = 昭和的な意識の真面目な兵隊」ということを意味します。

 企業が存続するためには、イノベーションや新規市場開拓、新たな発想による事業展開が必須です。それを実現できる社員は、キャリアビジョンを持ち、自立し、積極的かつ行動的でなければなりません。仕事を兵役と割り切って働く兵隊さんには不可能です。こうした乗組員しかいない会社の未来はどうなるでしょうか? しかし、この船長たちは、それに全く気づいていません。