逃れられない介護と病気

 「仕事があるって良いことよ、私なんて専業主婦だもの。子育てが終わって子供たちが独立したと思ったとたんに、介護が始まったわよ。夫なんて育児をしなかったんだから、介護だって全く頼りにできない。仕事をしていない私を、皆があてにしてるわ。自分の親と夫の親で合わせて4人よ、介護で人生終わっちゃうわ」

 周りの女性たちが深くうなずいています。私の同級生の女性の9割が専業主婦です。金銭的に豊かな生活をされている方は多いのですが、それと介護は別物です。私も親の介護を経験しましたが、仕事があったことが心の支えになりました。仕事が人生のバランスを取るのにとても大切だったことを思い出します。58歳はまさに「介護適齢期」です。男性が定年退職したとして、そこに同じものが待ち受けています。自分の好きなことだけできるお気楽な人生は広がってはいません。

 「仕事を続けているのってうらやましい。結婚で会社辞めるんじゃなかった。働き続けていたら今頃は……なんて思うことあるわ。だから、娘には結婚しようが子供が産まれようが絶対に仕事を続けるように言っているのよ」

 「子供が巣立ってしまって、定年になる夫との二人暮らしなんて耐えられない。海外旅行へ一緒に行こうとか言ってるけど、私はもう十分行ったし、夫と一緒なんて楽しくないもの。もっと働き続けてくれないかしら、私が代わって働きたいくらい」

 企業戦士だった男性は、もう働き続けたくない。半面、同世代の専業主婦だった女性は働き続けたかった、今からでも働きたいと思っている。皮肉ですが、私たちの世代が実感していることだと思います。今や60歳を前に社会が激変し「一億総活躍」がスローガンとなり、元気な人は生涯現役で働く時代になりました。その中で自分はどうすればいいのか、その道しるべを探していて、それが見つからずに戸惑っている人が多いように思えます。

イキイキ笑顔でいられる同級生の秘密

 「僕は2年前、役職定年になって、しばらくは働く意欲もすごく下がっていました。今は、とても楽しいです。実は、思い切って1年前に転職しました。社長も含め社員のほとんどが20代から30代のベンチャー企業です。上司は自分よりもはるかに若いけど、自由でダイバーシティが根づいている組織風土です。この中で、自分自身の経験が役立っていること、組織の一員として必要とされている毎日が楽しいです。給料は下がったし、会社のブランド力も肩書も無いけど、2年前より仕事のやりがいあるし、僕はイキイキ働いています」

 彼の発言に、私は、光を見たような気がしました。

 外資系企業の日本法人で活躍していた彼は、2年前の同窓会では元気がありませんでした。部長職からの役職定年直後でした。今回は誰よりも元気な笑顔に溢れていました。彼は50代半ばにして、自分が必要とされる場所を見つけたのです。

 彼のように行動すれば、60歳の節目も超えてもイキイキ働き続けていけるでしょう。でも誰もが、彼のように勇気を持って行動を起こすことはできない。彼が行動できたのは、外資系企業の日本法人で広い視野を持って働いていたからだと思います。たった一つの日本の企業や組織で長く働いていると、視野はとても狭くなります。自分の存在意義がその会社にしかなくなってしまい、その会社の人事制度の中に身を任せながら働き続けるか、辞めるかしかないと思う人生に甘んじてしまいます。そこに仕事の充実感やイキイキ働くというキーワードは存在しません。

 2年後、60歳を迎える機会で次の同窓会が開かれることが、当日に決まりました。その時に、何人の男性たちが現役で働き続けることを選んでいるのか、幼なじみですからとても気になります。そして、日本で働く50代後半、定年を目前とした方々に対しても同じ気持ちです。生涯現役で働くことは、「年金があてにならないから、お金がないから、仕方なく一生働き続ける」のではなく、「イキイキと働き、健康寿命を長くして人生を楽しむ」ことであることに気づくきっかけが必要なのかもしれません。

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植田 寿乃(うえだ・ひさの) キャリアコンサルタント/ダイバーシティコンサルタント
植田 寿乃

 IT業界の人材育成を目的に有限会社キューを設立。その後、人材開発業界に転身。「モチベーション・リーダーシップ」「経営陣、管理職の人間力アップ」「女性と組織の活性化」「メンター育成」に取り組み、各種オリジナルカリキュラムを開発し、研修・講演を実施。著書に『「女性を活かす」会社の法則』『キャリアセレブになる36の秘訣』『30歳からの幸せなキャリアの見つけ方』など。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。