2018年10月25日、東京・日本橋で開催された「日経BPダイバーシティトップセミナー」。第3回は、中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授の佐藤博樹氏の特別講演「ダイバーシティ経営と職場風土改革:社員の変化対応行動の向上を」をお届けする。
(取材・文=西尾英子、撮影=武井俊晴)

残業が削減されても働き方改革にはつながらない

 冒頭で佐藤教授は、「働き方改革において、長時間労働の解消を目的とする企業は多いが、残業が削減されても働き方改革にはつながらない」と述べた。“ノー残業デー”や“一律〇時以降残業禁止”などのルールを設定すれば、残業は確実に減っていく。しかし、本当に大切なのは、「働き方が変わっているかどうか」だと指摘。佐藤教授は、働き方改革で実現すべきこととして、①残業削減ではなく“安易な残業依存体質”の解消②多様な人材が活躍できる働き方の実現、の2点を挙げ、「“時間意識の高い働き方”を実現し、その結果として残業が削減されることを目指すべき」だと強調した。

1981年一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。1991年法政大学経営学部教授、96年東京大学社会科学研究所教授、2015年東京大学名誉教授、2014年10月より現職。内閣府・男女共同参画会議議員、内閣府・ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員、経産省・新ダイバーシティ企業100選運営委員会運営委員長、ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト共同代表など。著書に『人材活用進化論』(日本経済新聞出版社)、『職場のワーク・ライフ・バランス』(共著、日経文庫)、『ワーク・ライフ・バランス支援の課題』(共編著、東京大学出版会)、『新訂・介護離職から社員を守る』(共著、労働調査会)、『ダイバーシティ経営と人材活用』(共編著、東京大学出版会)など。

 安易な残業依存体質を変えるには、仕事のやり方やマネジメントを見直す必要がある。例えば、顧客からの急な依頼で残業が発生しそうな場合、どのような対応をとるべきか。顧客の要望を最優先に考え、当たり前のように残業をしてきたのが従来のやり方だ。しかしそうではなく、まずは顧客とコミュニケーションを取ってスケジュールの調整ができないかを相談したり、今日行う予定だった仕事を別の日に動かす、あるいは、残業が必要なら、その日にある程度まとめて仕事をし、違う日に早く帰宅できるような計画を立ててメリハリをつけるといった方法もある。安易に“残業すればいいや”と考えるのではなく、たとえ残業をするとしても、様々なやり方を思いめぐらせてみることが大切だという。

 さらに、働き方改革を推進するには、「多様な人材活用のための基盤を整備する」ことが大切だ。多くの企業が両立支援制度を充実させた結果、働き続けやすい環境は整ってきた。しかし、問題はそうした人たちが「本当に活躍できているか」であり、「過度な両立支援制度がキャリアの形成を阻む場合もある」と佐藤教授は指摘する。例えば、時短勤務を長期間取得し続けていると、スキルを獲得するために必要な仕事経験が積めず、同期との間にキャリア格差が生まれてしまう。

 「最も望ましいのは、両立支援制度に依存しすぎることなくフルタイム勤務に戻れること。そのためには、家庭での育児協力が必須であり、妻だけでなく、夫の勤務先の会社でも働き方改革を進めていくべき。皆さんの会社でも両立しやすい職場に変わりつつあると思うが、こうした流れを会社や社会全体に浸透させていかないといけない」と呼びかけた。最近では、復帰時に夫とペアで研修を受け、今後の働き方を考えるといったプログラムを用意する会社も増えている。