エンゲージメント向上で「無気力社員」を変革

 続いて青山学院大学経営学部経営学科教授の山本寛氏は、「SDGs8に向けた社員の働きがい重視の人材戦略」と題し、国連が掲げるSDGsの8番目の目標「働きがいも経済成長も」実現に向けた人材戦略について解説した。長時間労働是正や有給休暇義務化など、働き方改革では主に「働きやすさ」が注目されるが、一方で働くことによって得られる効果や意味を表す「働きがい」も重要なテーマとなっている。同氏は「働きやすさ」の改善だけで労働生産性を高めるのは困難で、仕事の内容的側面としての「働きがい」も同様に重視する必要があると指摘した。

 「働きがい」の度合いを示す指標として、本人の仕事に対する意欲、熱意度を意味する「エンゲージメント」が広く用いられている。エンゲージメントは世界的に上昇傾向と言われるが、2017年に米国ギャラップ社が行った調査では、日本で「エンゲージメントの高い社員」とされたのは全体のわずか6%(139カ国中132位)と報じられて大きな話題となった。同氏は「働きがい」の捉え方として、仕事で感じられる「ワクワク感」や成長実感は常に一定ではなく上昇・下降を繰り返しながら継続するもので、向上には両方の視点が必要だと述べた。

青山学院大学経営学部経営学科教授 山本寛氏
人的資源管理論担当。博士(経営学)。メルボルン大学客員研究員などを歴任。働く人のキャリアと組織のマネジメントが専門。日本経営協会経営科学文献賞、日本労務学会学術賞など受賞。著作(単著)は『連鎖退職』『なぜ、御社は若手が辞めるのか』『「中だるみ社員」の罠』(いずれも日本経済新聞出版社)など

 このような現状を踏まえ、同氏は「どんな仕事でも、常に働きがいを感じ続けるというのは難しいものです。ただし、まったくやる気が感じられない社員や、周囲に不満をまき散らす無気力社員が多くなることは企業にとってマイナス。エンゲージメントは重要なテーマなのです」と語る。講演ではエンゲージメントが生産性、売上高向上に大きく影響した企業の事例を挙げ、効果を示した。

 一方、「働きがいを感じる」とは逆の状況となる「停滞(伸び悩み・中だるみ)」についても解説した。停滞は目の前の仕事に忙殺されたり、忙しいだけで喜びが見いだせない状況で発生する。人手不足に悩む職場では一人で何人分もの仕事をこなすケースも多く、停滞が慢性化してしまう。また、長期間同じ職務を担当することで生じる停滞や、他の社員より異動が少ない「塩漬け人材」の存在も問題だ。

 このような停滞を脱却してエンゲージメント向上を実現する方法として、同氏はいくつかのポイントを提案している。具体的には上司の励ましや教育指導に基づく権限委譲、表彰制度の導入、休暇の充実、社内人材公募制度といった取り組みが紹介された。

 「エンゲージメントを向上させるには、通過点として必ず停滞を伴います。働きがいのある職場を作るため、組織や上司は次々に新しい工夫を続ける必要があります」(山本氏)。働きがいを感じ続けるのは難しいことだが、「ワクワク感」を育てる努力には大きな意味があると同氏は述べた。