新型コロナウイルスの感染対策として、全社規模で在宅勤務を導入する企業が増えてきた。フェース・ツー・フェースのコミュニケーションができないので仕事が進まないと嘆く人がいる半面、オフィスよりも仕事に集中できるという利点を見いだしている人も少なくないだろう。今回の取り組みをきっかけに在宅勤務の比重を高める企業も出てくるかもしれないが、すでに日常的な出勤が不要で在宅勤務だけで会社を運営している組織もある。そんな企業の働き方を紹介しよう。
(取材・文=吉川和宏)

毎日の出勤は物理的に不可能

 その企業とは、顧客企業の経営改革を支援するビジネスを展開しているゴールドラットジャパン(東京・港区)である。同社の事例記事を執筆した際に、詳しい話を聞いた。

 同社が属するゴールドラットグループは、世界的なベストセラーとなった『ザ・ゴール』の著者、エリヤフ・ゴールドラット博士が母国のイスラエルに創業した企業。同グループは、ゴールドラット博士が開発し、その後も進化しているマネジメント理論「TOC(Theory of Constraints:制約理論)」を活用してグローバル規模で経営改革を支援している。顧客の中には経営が苦しい企業も多く、これまでの延長線上では解決できない問題を解消するという極めて困難な課題に日々取り組んでいる。閉鎖を迫られた工場を立て直す様が描かれた『ザ・ゴール』のストーリーと同様に、経営危機を招きかねない案件が毎日のように飛び込んでくるからだ。現在、日本法人には約70人のメンバーが在籍中だ。

 同社には、社員が日常的に出勤するオフィスはない。スクール事業のためのセミナーハウスが東京と京都にあるが、ここにも社員のデスクがあるわけではない。そもそも、社員の居住地が関東・東海・関西・中国・四国・九州とほぼ日本全域に点在しているので毎日、オフィスに出勤すること自体が物理的に不可能。全ての社員が在宅勤務で仕事をこなしている。

京都にあるセミナーハウス「楽月庵」(出所:ゴールドラットジャパン)

高価なITツールを使わずに在宅勤務を実現

 「このような勤務形態でほかの社員と協業できるのか」「顔を突き合わせないで部下のマネジメントができるのか」「これでは人材が育たないのではないか」――。これらの疑問を抱いた方も少なくないだろう。特に先進的なITツールを導入しているわけではない。社内のコミュニケーションで使っているのは電子メールとクラウド型のウェブ会議システムくらい。これに加えて、携帯電話やスマートフォンのSMS(ショート・メッセージ・サービス)も活用している。ビジネス用途ではあまり使われなくなったSMSだが、後述するように同社では、極めて重要な役割を果たしている。いずれも、財務的な体力が乏しい中小企業でも利用できるツールばかりだ。

 クライアントごとにチームを組んで仕事を進めているが、このチーム編成やクライアントへの訪問前後の取り組みにちょっとした仕掛けがある。これらがスムーズな協業やマネジメントを実現する秘訣となっている。