米国や欧州では、投資家を中心に企業に対して「人的資本」の情報開示を求める動きが進んでいる。人的資本とは、いわゆる経営資源の「ヒト・モノ・カネ」の「ヒト」に関する内容だ。従業員の待遇や企業文化の促進などに関して、その実態を開示することが求められている。これはもはや世界的な潮流であり、日本企業も例外ではない。後編では、すでに情報開示へ動き出している米国や欧州の企業事例から、日本企業に求められる対応と今後の方向性を考察したい。
(取材・文=平沢真一)

(写真:123RF)

人的資本と企業文化をセットで推進

 英国の大手コンサルティング会社、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッド(EY)が、人的資本の情報開示に関する企業の取り組みを調査している。2019年の「Fortune100」にリストされた企業の中から、82社のプロキシーステートメント(株主総会招集通知)を分析した。

 この調査によると、欧米企業に共通する2つの大きなポイントが浮かび上がる。1つは、人的資本だけでなく、企業文化もセットで考えている点。2つ目は、この問題を経営の優先課題と位置づけ、経営トップの責任で進めている点だ。

 これは、上場企業への義務化を検討している米国証券取引委員会(SEC)の方向性とも一致する。SECは、コーポレートガバナンスやコンプライアンスの環境作り、企業文化の推進などの監督を、取締役会の責任としているからだ。

CHRO/CHOを中心に組織を構築

 EYによれば、今回調査した82社の3割近くが、取締役会のメンバーに人的資本に関する知識と経験を求めている。例えば、人的資本マネジメントに関する経験、人材育成やスキルアップの仕組みを構築した経験、倫理とコンプライアンスに関する研修プログラムを構築した経験などだ。最高人事責任者(CHRO/CHO)のような人材を導入するケースも少なくない。

 また、44%の企業は、文書の中で人的資本マネジメントの経験を持つ取締役クラスの名前を1人以上挙げ、その人物が取締役会に参加している理由などを説明している。そのバックグラウンドを説明する表現としては、ダイバーシティに関するリーダーシップや、企業文化の形成、人的資本マネジメントに関する経験などが見られた。このほか、一般的な企業経営の経験や事業拡大、企業の合併および買収などの経験を例示しながら、人的資本と企業文化への取り組みを説明する企業もある。

 EYはレポートの中で「あらゆる企業の取締役会はCHROと協力し、人的資本と企業文化のマネジメントの範囲を定義していくだろう」と述べている。この分野において、CHRO/CHOへの期待が大きいことが分かる。