コンフリクトは突然舞い込む!

 職場ではコンフリクト(意見の対立)に突然巻き込まれ、交渉しなければならなくなる場面が数多くあります。パワハラ研修などを手がける企業コンサルタントであり、複数の大学で非常勤講師を務める50代のNさんの事例から、コンフリクトに必要な交渉力について考えてみましょう。

 Nさんは、産休に入る教員の代役を引き受けることになりました。事前の打ち合わせで共通の教科書を使うこと、期末試験を実施することの2つを指示されました。ところが指定された期末試験日は、Nさんが半年前に依頼を受けたクライアント研修の当日でした。

 コーディネーターをしているT教授に試験日の変更を相談すると、「それは困る。何とかしなさい!」と命令調で言われました。しかし他の非常勤講師から、大学の指定する予備日に変更ができることを聞き、無事に手続きを済ませました。

 そして学期半ばのある日、Nさんが大学事務室に教材を取りに行くと、T教授が突然現れ「決まった日に試験をしてもらわないと困る!」とNさんを怒鳴ったのです。

 「あの、予備日に行うことにしたので……」とNさんは説明しようとすると、

 「いや、決まった試験日に実施しなければいけない」と畳みかけてきました。

 「でも、打ち合わせの時にご相談しましたが……」

 「そんなことは知らない! とにかく、決まった日にやるものなんだ!!」

T教授からの怒号を浴びながら、説明を試みるものの堂々巡りな状況でした。

 さて、あなたならどうしますか?

交渉の目的は絶えず変化する

 Nさんは怒鳴られている20分間の感情の変化を語ってくれました。

 「なぜ、こんなことで怒るのか理解できませんでした。説明しようとしても怒鳴られ続けるので、全身が熱くなり、息が速くなる感じがありました。私は企業でパワハラ・セクハラ研修を行っています。自分で解決しなくてはと思い始めだ頃、事務室にいる約40人の職員と学生たちがかたずをのんでこちらに注目しているのに気づきました。その中で私を助けようとする人は誰もいませんでしたが、この静かな40人の観客が私のリソースになることに気がつきました」

 Nさんは徐々に身を小さくし、声を震わせてT教授に説明するようにしました。10分後、「これがどういうことになるか、分からせてやるぞ!」という捨て台詞を残して、T教授は立ち去りました。Nさんは涙を浮かべ、「何が起きるのでしょうか。大丈夫でしょうか」と呟きながら震える手で職員から教材を受け取って授業に向かいました。

 「T教授へ論理的に説明するより、自分がパワハラの犠牲者であることを周囲に分かりやすく提示する戦略をとりました。40人の観客から証人を作っておくことが大事だと判断したのです」とNさん。「日程調整」というT教授との交渉の目的に「自己防衛(雇用維持)」を加えた理由を語りました。その目的達成のために、彼女は自分の演技力というパワーを行使したのです。