また安田氏は、日本の経済再生のカギである女性活躍推進について、IMF(国際通貨基金)専務理事・クリスティーヌ・ラガルド氏が過剰残業対策の重要性を指摘していることにも言及。働き方改革が難しい要因をミクロの視点でとらえると、「過剰残業が減らない理由は、制度の有無よりも組織内部の変わらない空気が原因である」と安田氏は指摘する。有給休暇や育児休業の取得が進まないのも、同様だ。

 さらに、過剰残業の原因は「ブラック均衡」であると安田氏。ブラック均衡とは「誰にとっても望ましくないが、非常に安定している状況」で、ここでは「本来、社員全員が定時退社すれば全員の満足度が高くなると分かっている。しかし自分から進んでは定時で退社できず、結局全員がサービス残業から抜け出せないでいる」状態を言う。

 ブラック均衡を打破するには、安田氏の専門である「ゲーム理論」(例:自分にとって望ましい行動は、周囲の行動によって変わる)を応用すればよい。前述の状況では「空気を読まない人材の活用」と「経営陣や上司のコミットメント」が有効である、と安田氏は語る。前者については、「周囲の空気に惑わされず定時退社する人」が一定数いれば、周囲の行動も変わってくる。後者は、経営陣や上司がブラック均衡を打破することへの「本気度」を示す効果があり、事例として男性の育休取得者に奨励金を出した企業を取り上げた。

安田氏の講演に聞き入る参加者

人材獲得・配置に応用できるマッチング手法

 最後に安田氏は「マッチング戦略」についても言及した。求職者と企業、社員と配属部署など労働市場には様々なマッチング問題がある。ゲーム理論の研究では、お互いに満足度が高いマッチングを成功させる仕組みが知られていて、ノーベル賞も受賞している。結婚市場における「男女のマッチング」を例に仕組みを具体的に解説すると、「参加者全員が好みの相手のランキングを提出」→「男性が第1希望の女性に一斉にプロポーズ」→「女性は自分にプロポーズした男性の中で第1希望をキープし、残りをリジェクト」→「リジェクトされた男性は第2希望の女性にプロポーズ」というアクションを繰り返すことで、最終的に望ましいマッチングが確定されるというものだ。

 実際にこのマッチング手法は、研修医と所属病院、大学付属高校から大学への内部進学時の学部選択などで活用されているという。「同じ仕組みを企業の人事戦略に応用すれば、企業が欲しい人材を獲得し、適材適所の配属ができる可能性が高まるでしょう」と安田氏は提案し講演を締めくくった。