リーダーシップ・アカデミーTACL代表のピーター・D・ピーダーセン氏は、20年以上にわたり多数の日本の組織と仕事をしてきた環境・CSRコンサルタント。氏は、これからの日本企業の活性化には「従来の成功の方程式」は通用せず、「マネジメント・イノベーション」が必要だと説く。前回から3回にわたり、日本企業が抱える課題と解決へのアプローチ、必要とされるマネジメント・イノベーションとは何か、また企業に改革を起こす「マネジメント・イノベーター」の育成について、ピーダーセン氏に聞いていく。
(取材=大塚 葉:日経BP総研 HR人材開発センター長 文=坂下明子 撮影=山田愼二)

マネジメント・イノベーションを起こすトリプルA経営メソッド

――ピーダーセンさんがマネジメント・イノベーションに関して提唱している「トリプルA経営メソッド」の「トリプルA」とはどのようなものでしょうか。

ピーター・D・ピーダーセン(以下ピーダーセン):「アンカリング(Anchoring)」「自己変革力(Adaptivness)」「社会性(Alignment=社会とのベクトル合わせ)」の3つです。20年以上コンサルタントとして企業に接し、また様々な文献の研究を通じて、しなやかで強い組織には、この3つの要素が高いレベルで存在していることが分かりました。なぜこれらの要素が組織を強くするのか、その理由を見ていきましょう。

リーダーシップ・アカデミーTACL代表
ピーター・D・ピーダーセン氏
1995年コペンハーゲン大学文化人類学部卒業。同年、中小企業向けのコンサルティング、国際シンポジウムの企画・運営などを行う東京の会社に就職。2000年環境・CSRコンサルティングを手掛けるイースクエアを共同創業、代表取締役社長に就任。11年同社共同創業者に。14年リーダーシップ・アカデミーTACL代表、15年NELIS-次世代リーダーグローバルネットワーク共同代表。
トリプルAが組織を強くする
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 「アンカリング」は、信頼関係をベースに、企業理念や存在意義(パーパス)が実際に生きているかどうかを指します。アンカリングが強固な会社では、一体感や団結力があり、社員のモチベーションと主体性も高まりますが、アンカリングが弱い会社では、トップが価値観やミッションを打ち出しても社員に効果的に伝わりません。

 「自己変革力」は、変化をいち早く察知し機敏な行動に反映させられる仕組みや仕掛けを指します。海外からやってきたボスが大鉈(おおなた)を振るったり危機に瀕してやむを得ず行う施策など、外力による変革では、その場はしのげても組織は変わりません。事業環境の変化の激しい今、企業は継続的な変化を求められています。そのためには学び続ける組織であること、「License-to-Create(創造許可)」が幅広い層に与えられていることが必要です。両方が備わっている組織では、アジャイルにかつ機敏に研究開発や市場創造が進むようになります。

 「アンカリング」と「自己変革力」については、ジム・コリンズらの『ビジョナリー・カンパニー』でも、よくよく読めば触れられていますが、もう一つ21世紀型の強い組織に欠かせないのが、社会の期待やステークホルダーの要請など、時代が求めるものにベクトルを合わせる「社会性」です。

 残念なことにここ数年の日本では、ベクトルがあるべき方向と反対を向いてしまう「不正」が多数起きています。インターネットの普及などにより情報の透明性が劇的に高まった今、情報の隠蔽や操作はまず不可能です。アルバイト社員による投稿動画のように、小さなことでもすぐ大問題に発展してしまいます。またサプライチェーンがグローバル化し、SDGs(持続可能な開発目標)やCSR(企業の社会的責任)、CSV(共有価値の創造)など社会的課題の重要性が増しているなか、時代が求めるものにベクトルを合わせられるかどうかが、企業の存続を大きく左右します。