噛み合わないコミュニケーション

 Aさんは世話役をしている異業種交流会で急に、講師との連絡係をやってほしいと頼まれました。講師は「オンラインワークショップデザイナー」という肩書を持つ30代の女性です。面識のない女性にメールを出すのはいささか緊張するものでしたが、「IT系の方の文面がなんというか……。非常に短く……」と不満げな表情でAさんはその時のいきさつについて語りはじめました。

 文頭の挨拶もなく用件のみを伝える女性講師のメール文は、業界の違いと理解しながらも還暦に近い年齢のAさんにとってなじみがないものでした。やり取りを始めたばかりのある日、女性講師から送られたはずのメールがAさんに届かず、両者の間にコミュニケーションの齟齬が起こりました。

 「こちら側といたしましては、原因が分かりかねますが、4月7日にはメールをいただいておりません。そのため、8日の私のメールでさらに確認を取った次第でございます」とAさんが事情を説明する文章を送りました。

 すると、女性講師から「私のGmailは受け取られていないようなので、別のメールアドレスから送信しました。とにかく、現在こうしてやり取りできているのですから、不毛な議論はやめて、前に進みましょう」という返事が送られてきました。

 「なぜ、こんなにも断言調に書けるのだろうか。何か自分が不誠実な人間のように受け取られたようで……」。人事畑で30年間、「正直、実直」を信念にしてきたAさんは怒りさえ感じていたのです。一方で自分の潔白を相手に認めさせることが得策でないことも経験上知っていました。 Aさんの第一の目的は異業種交流会を成功させることです。

状況判断の3要素

 コンフリクト(意見の対立)に直面した時、人は何らかの反応をする前に、状況判断をしています。その時、「人間関係」、「共有する目的」、「権力差」の3つに直感的に焦点を当てています。

(1)人間関係:将来にわたって相手を必要とするか、しないか。

(2)共有する目的:相手と自分の間に共有できる目的があるか、ないか。相手は自分の支援者になりうるか、障害となるのか。

(3)権力差:相手の持つ「力(パワー)」は自分より強いか、弱いか。それとも同じか。長期的に見て、どちらに影響力があるのか。

 直感で下した自分の判断に少し時間をかけてこの3つのポイントから分析してみましょう。そうすることで、自分の習慣的な行動パターンをコントロールでき、コンフリクトに対する戦略が明確化できます。

 Aさんは「相手は面識のない講師であり、今後、講師の依頼を続けるかどうかは彼女の実力と人柄をもう少し知ってからでよいと考えました。異業種交流会を成功させるという目的は共有していますから」と語りました。