リーダーシップ・アカデミーTACL代表のピーター・D・ピーダーセン氏は、20年以上にわたり多数の日本の組織と仕事をしてきた環境・CSRコンサルタント。氏は、日本企業の成長と活性化には「マネジメント・イノベーション」が必要だと説く。3回にわたる連載の最終回では、マネジメント・イノベーションに必須の「トリプルA経営メソッド」とその診断法を聞いていく。
(取材=大塚 葉:日経BP総研 HR人材開発センター長 文=坂下明子 撮影=山田愼二)

マネジメント・イノベーションは企業の存続を左右する

――企業の成長は「トリプルA」のレベルの高さ次第ということですが、ピーターさんがレベルが高いと感じる企業はどこでしょうか。

 ピーター・D・ピーダーセン(以下ピーダーセン):総合力が高い企業としては、トヨタ自動車とサントリーホールディングスが挙げられます。両社とも2018年環境経営度調査(日経リサーチ)の企業ランキングのトップ10にランクインしています。

 トヨタには、「トヨタイズム」という確固たるアンカリングがあり、WebサイトやテレビCMを通じて社会にも発信しています。「カンバン」「カイゼン」として世界に知られる「トヨタ生産方式」は今も健在で、現場発の提案が年間数十万件も取り入れられていて、これ自体がイノベーションに匹敵する自己変革力と言えます。2015年に掲げた「2050年にCO2排出ゼロ」という目標には、社会性もあります。

リーダーシップ・アカデミーTACL代表
ピーター・D・ピーダーセン氏
1995年コペンハーゲン大学文化人類学部卒業。同年、中小企業向けのコンサルティング、国際シンポジウムの企画・運営などを行う東京の会社に就職。2000年環境・CSRコンサルティングを手掛けるイースクエアを共同創業、代表取締役社長に就任。11年同社共同創業者に。14年リーダーシップ・アカデミーTACL代表、15年NELIS-次世代リーダーグローバルネットワーク共同代表。

 一方サントリーは、創業理念「やってみなはれ」が人事考課や採用活動、営業など随所に生きていて、アンカリングと自己変革の両方をもたらしています。非常に興味深いコンセプトだと思います。組織に若干の問題が見られなくはないのですが、「水と生きる」「人と自然と響きあう」といった企業理念がうまく打ち出されていて、社員の自負心も社会からの評価も高い。トリプルAのレベルが高いと、社内の雰囲気が明るくなり、前向きな人間集団につながる好例と言えるでしょう。

 セコムもトリプルAのレベルが高い企業の一つです。社員に「日本と日本人の安全と安心を担っている」という自負心があり、会社に誇りを持っている人が多く、アンカリングと社会性のレベルの高さを感じます。そういう環境では、内発的動機も生まれやすく、イノベーションがうまく回りやすくなります。

――トリプルAのレベルが、実際に企業の存続を左右した例はあるでしょうか。

ピーダーセン:コダック(米国)と富士フイルムは、同じフィルムメーカーでありながら、一方は破産法(民事再生法に相当)の適用を申請、一方は収益力が向上と明暗が分かれました。アナログフィルムで米国90%のシェアを誇っていたコダックは、自己変革力が乏しかったため、カメラのデジタル化に対応できませんでした。自己変革力の高い富士フイルムは、紆余曲折がありながらも、医療機器や化粧品など事業の多角化に成功しています。今ではカメラ以外の売上が約85%を占め、近い将来、社名から「フイルム」が消えるのではと思わせる状況です。

 下がってしまったトリプルAのレベルは、回復できないわけではありません。例えば90年代にアジアの工場の労働条件が取り沙汰され、一時はブラック企業の烙印を押されていたシューズメーカーのナイキは、98年に方向転換を図って社会性の回復に取り組んだ結果、2008年にはサステナブルブランドと呼ばれるまでになっています。トリプルAは高いレベルにあるに越したことはありませんが、経営者の手腕、事業環境の変化、競合社の出現などによって、多少の変動が出てくるものです。だからこそマネジメント・イノベーションを起こして、トリプルAのレベルの変化(あるいはその予兆)を発見し、問題を指摘し、改善する能力を高めていく必要があるのです。