日米財界人会議やAPECの金融フォーラム(APFF)でも注目されている健康経営。6月に大阪で実施されたG20でも健康経営が重要なテーマの一つに掲げられた。人生100年時代の今だからこそ、すべての企業が知っておくべきその背景と意義を最新のデータをもとに解説。経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課長 西川和見氏による基調講演で振り返る。

 [この記事は「Human Capital 2019」(主催:日本経済新聞社 日経BP、2019年5月29~31日、東京国際フォーラム)での講演「企業戦略としての健康経営――進む取り組み、資本市場で高まる評価」をまとめたものです]
(構成=寺島 豊、写真=稲垣純也)

21世紀型社会は生涯現役

 今、政府は「生涯現役社会の実現に向けて」をスローガンに、様々な取り組みを進めています。健康経営の話をする前に、その説明をします。

 WHOでは、65歳以上の人口の割合が21%を超える社会を超高齢社会と定義しており、2015年時点で超高齢社会にある国は3カ国あります。21.1%のドイツ、22.4%のイタリア、そして断トツで26%の日本です。もっとも、超高齢社会の波は全世界に及んでおり、2060年には世界の主要国が、2080年にはアフリカの数カ国を除いてほぼすべての国が超高齢社会になると言われています。

 これは、19世紀型から21世紀型の人口構成(デモグラフィ)に人類社会が変わっていくことを意味します。70歳は古い言葉で「古希」と呼ばれ、かつては稀なことでした。それが、バブル経済崩壊あたりからデモグラフィがどんどん変わり始めて、高齢者が社会の主要構成員になってきた。これが21世紀型の社会です。

 高齢者が4割いるという社会が当たり前になるのなら、そのデモグラフィを前提に元気な社会や企業を作り出し、イノベーションを起こし、地域社会を支えていく。そんな姿勢の方が大切ではないか。そのためにはどんな投資をしなければならないか、というのが、我々のチャレンジになります。

 そこで課題となってくるのが人への投資です。人への投資には教育が挙げられますが、健康も教育と並んで重要です。あらゆる世代の人を健康にしていくということは、社会政策であると同時に、21世紀における経済政策の柱でもあります。働き手とそれを支える環境の整備、そして消費の活性化といったマクロの経済環境を整えるとともに、超高齢社会のニーズに応える製品やマーケット、産業を作り出すというミクロのアクションを起こすことが、今のイノベーション政策の一丁目一番地なのです。

経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課長 西川和見氏

 医療や介護、社会福祉が抱える課題からアプローチしましょう。高血圧や既存の感染症、リウマチといった「単一標的型疾患」にり患した場合、19世紀までは多くの方が亡くなっていたのですが、20世紀になってずいぶん克服されました。では、21世紀の日本や先進国の課題は何かと言うと、まず、糖尿病やガンなどの「生活習慣に係る疾患」の克服があります。これらの一部は治る病気に変わってきましたが、根治するためには、手術や薬といった医療の範囲だけでなく、日常生活から改善に取り組んでいかなければなりません。

 さらに、認知症などの「老化に伴う疾患」に対して、医療面ではまだ課題山積です。アルツハイマー病はいまだに特効薬が見つかっていません。その状況で、治すというアプローチよりも、病気を早く発見する、進行を遅らせる、最終的に病気とともに生きていく、というアプローチが重要になってきます。このような21世紀の医療の課題を解決するうえで、職域における健康管理は非常に大きな意味を持っているのです。