健康経営は1ドルの投資に対し、3ドルのリターンがある

 あらためて健康経営とは何かを説明しましょう。従業員の「健康管理」であれば、これまでも企業は義務として取り組んできました。これに対し「健康経営」というのは、従業員の健康に投資して、生産性や創造性を高めて組織を活性化するための企業戦略、あるいは経営理念ということになります。つまり、義務ではなく、高い成果を得るために自発的に取り組むべき企業活動なのです。

 健康経営でよく例に出る企業が米国のジョンソン・エンド・ジョンソンです。

 同社では75年も前に制定した「我が信条(Our Credo)」という経営理念において、従業員と家族の健康や幸福に対する責任を表明しています。また、医療関係の人件費や設備といった健康経営に1ドル投資すれば、生産性の向上、医療コストの削減、モチベーションの向上、リクルート効果、企業イメージアップの面で、3ドルのリターンがあると試算しています。

 次にマクロの視点で見てみましょう。米国商工会議所が2016年に発表した「健康と経済」というレポートによると、各国経済の中で「病気による早期退職による損失」「休養を取るべきところ無理して働く状態(プレゼンティーズム)による損失」「病気・体調不良で長期欠勤している状態(アブセンティーズム)による損失」の3つを合計すると、米国ではGDPを8.2%、日本では7.0%それぞれ引き下げている、としています。経済政策などでGDPを1%押し上げるだけでも大変なのですから、これは大変な損失です。

 このようにミクロで見てもマクロで見ても、健康経営がいかに効果的であるかが分かると思います。

健康経営に対する行政の取り組み

 経済産業省では健康経営に関して様々な取り組みを進めています。

 まず、日本健康会議や厚生労働省と協力して「健康経営度調査」を進めています。これは法人の健康経営の取組状況と経年での変化を分析することを目的とする調査で、2014年度は回答企業が493社だったのに対し、2018年度は3倍以上の1800社(上場企業859社、非上場企業941社)の回答を頂きました。また、この調査を基に、「健康経営銘柄」の選定および「健康経営優良法人」の認定を行っています。

 健康経営銘柄とは、東京証券取引所と共同で、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を選定するもので、株式市場においても適切に評価されるように取り組んでいます。2019年2月には37社を選定・発表しました。

 次に健康経営優良法人とは、大企業と中小企業で分けて、健康経営に取り組む企業を認定するもので、同じく2019年2月には820社の大企業と、2503社の中小企業を認定・発表しました。実は、大企業はこれまで「ホワイト500」という名称のとおり、500社を想定したものだったのですが、いよいよ500社では収まりきらなくなりました。

 このように、特に大企業においては健康経営が広がりを見せており、1000万人の従業員をカバーする規模に膨らみました。もちろん、全国には8000万人の労働者がいるわけで、中小企業や地方にも広げていかなければなりません。現在、約3万社の中小企業が健康宣言に取り組んでいると試算されていますが、日本には300万社の中小企業がありますから、これからも力強く推進していかなければなりません。地方に関しては、今、8割くらいの都道府県で国がやっているのと同じような健康経営の枠組みを設けています。

株価や離職率でも健康経営企業は優れている

 健康経営は株価にも大きく影響してきます。ESG投資(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)という企業価値の判断基準や企業目標が世界中に広がってきました。この2つは環境との関連を連想する人が多いかもしれませんが、2つとも当然ながら「健康」が入っています。つまし、健康経営に積極的な企業を、ポートフォリオの優先順位につける機関投資家が増えているのです。