人材に対する積極的な健康投資を通じて、社内の活力アップや生産性向上につなげる「健康経営」に取り組む企業が増える一方で、実践するうえでの具体的な課題も見えてきた。健康経営における先進的企業の人事担当者と、メンタルヘルス分野の復職支援に詳しい精神科医が登壇。女性特有の疾患、生活習慣病、がん、メンタルヘルスなど具体的な疾患に対する取り組みをもとに、日本における健康経営の課題と未来像を探った。

 [この記事は「Human Capital 2019」(主催:日本経済新聞社 日経BP、2019年5月29~31日、東京国際フォーラム)での講演「健康経営EXPO特別セッション 今こそ急務!『からだの不調』を支える組織づくり」をまとめたものです]
(モデレーター=厚生労働省 健康局健康課 女性の健康推進室長 中村洋心氏、構成=寺島豊、写真=稲垣純也)

中村(以下、敬称略):モデレーターを務めます厚生労働省の中村です。「健康経営を支える組織づくり」をテーマに、最初に川島さん、一番ヶ瀬さん、佐柳さんにそれぞれ職場でどのような健康支援に取り組まれているのか発表いただき、続いて精神科医として精神疾患の復職支援に取り組まれている五十嵐さんに、休職の乗り越え方についてお話しいただきます。そのあとに、職場での健康支援のあり方について幅広くディスカッションしたいと思います。

「女性特有の疾患への対応」は、女性活躍の真の実現に欠かせない

川島:少子高齢化によって働き手不足が予測されるなか、女性の活躍が期待されています。他方で、非正規雇用の割合が男性に比べて高いこと、また初婚年齢の上昇・晩産化により出産リスクが高まっているといった新たな問題も生まれています。本当の意味での女性の働きやすい職場環境の実現には、まだまだ課題が多いのが実状です。その要因の一つに、「女性特有の疾患に対応できていないこと」が挙げられると私たちは考えました。

花王 人財開発部門健康開発推進部 全社産業医 川島 恵美氏

 花王が女性の健康支援、特に女性特有の疾患へのアプローチを重視するようになった基本的な背景として、男女によって疾患リスクが明確に異なるという現実があります。20~60代までの就労世代の疾患リスクを男女別・年齢別に整理すると、男性の場合は年をとるごとに生活習慣に関する病気のリスクが増えていきます。これに対し、女性の場合、多くの方々が20代の時点から月経障害をはじめ「会社を休むほどではない不調」という状態を経験します。さらに、妊娠・出産という健康上の大きなイベントがありますし、婦人科がんも就労世代に多く起きます。年齢を重ねれば更年期障害の症状も出てきます。

 つまり、様々な疾患について男女では生物学的な性差が厳然としてあります。にもかかわらず、現状の健康診断は生活習慣病の予防が中心で、女性特有の疾患へのアプローチは十分にできていません。もし女性を自社に欠かせない労働力と考えるなら、このままでいいのだろうか? このことが、女性特有の疾患への対応を弊社が強化していく大きなきっかけになりました。

 では、どのような手順で取り組めばよいのか。最初にやるべきは「目的の明確化」です。

女性の健康支援の目的と施策との関係

(1)母性保護……妊娠・出産への支援
(2)キャリア支援・少子化対策……不妊治療
(3)長期病休者の低減……婦人科がんへの施策
(4)健康障害予防……作業関連疾患
(5)労働生産性の向上……女性ホルモン関連疾患