データ量が圧倒的に少ないHRの世界で大切なこと

 データ解析をする人事担当者にも苦しみはある。一般にデータ解析は量があればあるほど精度が高まっていく。ビッグデータ解析で先をいくアドテクノロジーやEコマース領域では、すでに数億件のデータが蓄積している。

 HR領域では、データ量は各社の社員数に依存するため多くとも数万件の蓄積しかない。この少ないデータから精度の高いモデルを作ることは非常に難しく、場合によっては機械学習を使わない方が良いケースもある。加えて、データを解析するためには、社内に分散するデータを集めて項目をそろえ、欠損データを除外するなどのデータ整形も欠かせない。

 この課題に対し、石原氏は一つの解として現在アメリカで注目を集めるEmployee Experience Platform(EXP)を提唱する。EXPとは分散された人事データを統合し、集めたデータをどう組織改善に生かすのかを、シンプルに一つのストーリーラインで設計したものだ。具体的には、社内に分散する勤怠管理、給与計算、評価管理などのHRシステムをAIとRPAによって一つのプラットフォームに自動統合し、その蓄積データを用いて解析、分析結果を提供する。

 ただし、EXP導入ですべてが解決するわけでもない。石原氏によると、企業の人事担当者からは離職予測や最適配置に関するアルゴリズムのニーズが強いという。しかし、多くの企業では配置転換は2~3年に一回あるかないか。配置させる回数も少ないため、配置後の活躍をどの時点で正解とするのかも難しい。人事の実務を手掛ける丸吉氏にデータを作るコツを聞いた。

 「私なら、何が最適配置なのかを深掘りします。まず、“最適”とは“何がどのようになっていること”なのか、具体的に定義しないと始まりません。“人が活躍する”配置と定義しても、まだあいまいです。活躍人材といっても人が人を評価したり、事業コンディションを考慮したりと、どんなに目標を定量的にしたところで完全な定量評価は難しいのです。ですから、『現場に納得感があるか』とか、現場の熟練された感覚で『例えば3期連続成果を出したら活躍社員だね』と定義づけてしまって良いと考えます。こうして初めて“活躍”の定義ができるのであって、“最適配置”まで至っていません。このように一つずつ丁寧に定義し、データで抽出する行為を繰り返す必要があります」(丸吉氏)

 HRの世界では予測モデルを立てたところで、予測される課題への具体的な対応策を見いだせなければ意味がない。ピープルアナリティクスをやりたいという人事担当者は増えてきているが、何のためにそれをやるのか。データ活用はあくまで手段であることを忘れず、予測モデルを立てること自体が目的にならないように気を付けたいと丸吉氏はまとめた。

「ミレニアル世代」という言葉はもういらない
個々人に最適化された未来の可能性

 HRテックの導入や活用について関心は高まっているものの、実証実験を超えて本格的に導入し、自社の意思決定プロセスや業務プロセスに組み入れているケースはまだ多くない。その理由の一つがHRテックを導入することで人材マネジメントをどのように変え、それが経営や事業にどのように貢献できるのかを定義しないまま導入を進めていることにあると土橋氏は指摘する。

PwCコンサルティング マネジャー 土橋隼人氏
会計系コンサルティングファーム2社を経て現職。10年以上組織・人事領域のコンサルティングに従事。人材マネジメント戦略策定、人事制度改革、コーポレートガバナンス改革、組織・人事デューデリジェンス、組織・人事統合支援、働き方改革支援などに携わる。近年は、Employee ExperienceとPeople Analytics領域に注力している。日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員。