2018年9月、AMDD(一般社団法人米国医療機器・IVD工業会)が初めての試みとして、女性医師と女性営業職によるパネルディスカッションを開催した。AMDDとは、主に米国に本社を持つ医療機器関連企業約60社で構成される工業会で、国内医療機器販売額は約7割(約1兆8,000円)に及ぶ。厚生省の調査によると、日本で働く女性医師はいまだ、全体の20%程度にとどまっている。同様に、医療機器業界の女性営業職も出産・育児をきっかけに退職、または内勤の業務へと「社内転職」してしまい、なかなか数が増えないという問題を抱えている。今回のパネルディスカッションでは、会員企業の人事や広報担当者などに加えて現場の男性管理職も聴衆に迎え、女性営業職と女性医師双方の立場から、抱えている課題と切り拓いてきたキャリアを共有する初めての機会となった。
(取材・文=ヒューマンキャピタルオンライン編集長 原田かおり)

「営業のやりがい」を実感できるか

 医療機器業界の女性営業職として登壇したのは、ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社 田中美幸氏と日本メドトロニック株式会社 下田 悠氏だ。田中氏は営業職を20年余り勤め、育児と転勤による地方勤務も経験してきた。「営業職の仕事は、ひたすら勉強が欠かせません。先生のお役に立てるということは、患者さんのQOL向上に役立てるということ、ひいては患者さんの家族の幸せにも貢献できることです。この仕事を通じて、達成感とやりがいを実感しています」と話す。一方で、営業職7年目という下田氏は、出産を控えた女性営業職の同期が退職したことをあげ、「男性の上司に今後のキャリアプランをどのように伝えて、理解してもらうかが難しいと思います」と言う。

 医療機器の営業職は病院や医師の稼働時間に合わせるため、勤務形態が不規則になりがちだ。長時間にわたる手術の立会いなど、体力を要する仕事もある。仕事をチームで共有するワークシェアリングなどを進めていく必要がある。

「女性外科医は育児をしてはいけないのか?」

 「女性営業職と女性医師が同じ悩みを抱えていることがよく分かります」と話すのは、高槻赤十字病院 消化器外科医師の河野恵美子氏だ。河野氏は外科医として働き始めて5年目に結婚、6年間に出産し当時の勤務先を退職。約1年後に医師の育児支援に積極的だった大阪厚生年金病院で復帰、医長として迎えられた。ところが、現場の反応は厳しかった。「手術の執刀もできない、患者を受け持つこともできない、外来も持てない。子どもがいるから責任ある仕事は任せられないということだったのでしょう」。ようやく病院長のトップダウンで膵臓がん、食道がんの手術を執刀できたのは半年後だった。「執刀を終えて、病院長が『よくやった』とねぎらってくれました。ただ、それは私と病院長二人だけの場所だったのです。全員がいる場で話してくれれば…と思いました」(河野氏)。

 診療科の中でも、特に外科は男性社会だ。外科における女性医師の割合は3.8%。河野氏は「自分と同じ思いをする後輩をもう出したくない」という思いを原動力に、消化器外科の女性医師を支援する団体「AEGIS-Women」を立ち上げた。例えば、学会期間中にライフイベントで時間的制約がある女性医師向けに、10分間のワンポイントレッスンを提供。また、子育て中の女性医師が泊りがけで技術向上のためのラボに参加できるよう託児所を設ける取り組みなどをスタートさせている。