企業競争力を高めていくために「組織のための個人」というあり方から「個人のための組織」へと、企業は変わろうとしている。従業員に対し、自己実現や社会とのつながりや、幸福感など給与だけでない価値提供に取り組み始める企業も出てきた。テクノロジーを活用した「次世代の職場と共創文化」について議論が交わされた。
 [この記事は「日経 xTECH EXPO 2019」(主催:日経BP、2019年10月9~11日、東京ビッグサイト)でのパネル・セッションをまとめたものです]
(構成=寺島豊、写真=川田雅宏)経済

株主第一主義から従業員や地域社会尊重へと経営の軸足が変わった

ワークハピネス 岩波氏(以下、敬称略):2019年8月、米主要企業の経営者で構成されるビジネス・ラウンドテーブルが「株主第一主義を見直し、従業員や地域社会を尊重した事業運営に取り組む」と宣言しました。企業として大切にすべきステークホルダーの第1位が顧客、2位が従業員、3位取引先、4位地域、そして5位が株主、という順位に見直すというのです。また、ミレニアル世代の6割が「会社の目的は利益追求よりも社会貢献だと考えている」と指摘しています。

ワークハピネス Co-Founder、eumo 取締役 岩波直樹氏

 企業資産と言われてまず思い浮かべるのが、エコノミック・キャピタルです。これは金融資産や有形資産ですから、目に見えやすい、数値化しやすい資産といえます。企業資産にはさらに2つあります。一つが、人間の幸福や心の成長といえるヒューマン・キャピタル、そしてもう一つが、社会関係資本やステークホルダーからの共感の質・量といったソーシャル・キャピタルです。この2つは、目に見えにくく、数値化しにくい資産といえますが、実は、エコノミック・キャピタルを積み上げていくための重要な要素なのです。

 これまでは、エコノミック・キャピタルばかり追求されてきました。しかし、SDGs経営や企業の市民としてのあり方が問われるようになった今、ヒューマン・キャピタルやソーシャル・キャピタルといったファイナンス以外の資産がより重要視されるようになってきました。先ほどの「株主第一主義の見直し」はまさにその表れといえるでしょう。

他者への共感が個人の心の成長を助長する

岩波:次に、個人の成長や発達の面で近年の動向を見てみましょう。2016年頃から、米心理学者のロバート・キーガンらが提唱する「成人発達理論」が日本に紹介され、話題になってきました。これは、人間の知性や能力は生涯にわたって成長しうるという考え方のもと、成人以降の成長を4段階に分けてそのプロセスやメカニズムを解明したものです。

 この理論では、人間の成長を水平方向と垂直方向の2種類に分けています。

 水平方向は知識やスキルの獲得といった量的で能力的な成長、これに対して、垂直方向は意識のフレームの拡大、認識の拡大、枠組みの変容といった質的かつ心の成長です。PCに例えると、水平方向の成長はアプリケーションの追加、垂直方向の成長はOSのアップグレードといえるでしょう。