石田 淳
株式会社ウィルPMインターナショナル 代表取締役社長兼最高経営責任者

 時短やワークライフバランスの重視など、盛んに「働き方改革」がいわれています。そうした流れは一般社員にとっては歓迎すべきことですが、経営陣やマネジャー職にとってはそうともいえない一面があります。とくに、人材不足が顕著ないま、1人の社員にもっと長く働いてほしいというのが企業の本音かもしれません。

 しかし、そんなことを言っていたのではますます働き手は逃げてしまいます。そこで、多くの企業が「社員が少しでも仕事をスムーズにこなせるように」とマニュアルづくりに励んでいます。とくに大企業は熱心で、マニュアルをつくる専門の社員が存在するほどです。

 ある保険関連企業では、毎年、各部署からマネジャークラスが集まり、マニュアルの改定を行っています。ただ、見直すたびにマニュアルとしての精度は高くなっており、扱う商品名などの更新のほかは「これ以上、どこも改定しようがない」とマネジャーたちは感じています。

 ところが、現場の社員たちからは、「マニュアルがあっても結局使いこなせない」という声が多く上がっているのです。つまり、毎年のマニュアル改定の努力が意味をなしていないわけです。

優秀な人がつくるマニュアルはなぜ役立たないのか

 どうしてこんなことになっているかといったら、マニュアルを見直しているマネジャーたちが、そもそも優秀だからです。優秀なマネジャーたちは、マニュアルを見て「そうだそうだ、自分もこうしている。なかなかよくできている」と感じているのですが、それができなくて苦しんでいる社員たちのニーズにこたえる形になっていません。自分たちができていることについて、できない人たちが本当に教えてもらいたいと望んでいることをフォローする内容になっていないのです。

 さらにいうならば、彼らは「マニュアルをつくればみんながきちんと見る」と思い込んでいる節があります。しかし、本来であれば最もマニュアルを活用してほしい「結果を出せていない人たち」は、そもそも「マニュアルを見る」という行動自体が習慣になっていません。印刷されたものにしろ、社内のネットワーク上にアップされたものにしろ、最初の1回くらいはちらりと目を通すものの、それを自分のものにするまで繰り返し見るということができていません。というのも、人間は面倒なことはしたくないからです。

 私は、誰がやっても同じようにできるよう、仕事を「標準化」することが欠かせないと思っています。ですから、マニュアルをつくること自体には賛成です。ただ、つくるときに考えなくてはならないのは、マニュアルを使う側の行動です。人間の行動のステップを理解してつくってほしいのです。