ある食品製造業の販売店でマネジャーを務めるA氏は、部下の身だしなみにうるさいので有名です。制服にシミがついていないか、しわくちゃになっていないか、袖口の汚れがないかなど、折に触れてチェックし、正すところがあれば注意しています。

 怒鳴るようなことはせず、あくまで「着替えてきて」と指示を与えるだけなのですが、それが度重なるため、陰でうるさがる部下もいます。

 さて、こうした細かいチェックは、マネジャーの本来の仕事なのでしょうか。

 答えは、イエスでもありノーでもあります。何のためにマネジャーがそれをやっているかによって180度、違ってくるからです。

 もし、A氏がただのきれい好きで「制服はこうあるべきだ」という思いから注意を与えているとしたら、「そんなことはどうでもいい」と言えるかもしれません。部下たちはA氏の子供ではないし、個人の価値基準を押しつけられたのではかないません。

 一方で、「部下に成果を上げさせるため」という明確な目的があるなら、マネジャーとして大事な仕事をやっているということになります。

 実はA氏は、自分自身の身だしなみについてお客様から叱責を受けた経験がありました。

 当時の上司からは指摘されなかったために気づかずにいたのですが、よく購入してくれる常連の男性客に「A君というの? キミは爪が汚いね。そんな手で触られたら食べる気がしないよ」と大きな声で言われ、とても恥ずかしい思いをしたのです。

 実際には商品は個別包装になっており、衛生面には問題はありません。その男性には一瞬、憎しみさえ覚えましたが何とかこらえました。

 そして、「二度と言わせてたまるか」という意地もあって、徹底して身だしなみに気をつけるようになりました。

 すると、ある時上司から呼ばれ、「お客様のBさんがA君のことを褒めていたよ。清潔感があって気持ちがいいって。ホームページを通して、本部にも伝えてくれたみたいだ」と言われたのです。驚くことに、Bさんとは、まさにその男性でした。

 以来、A氏は、「注意を受けるのが悔しいから」という消極的な理由ではなく、「きちんとしていた方が、自分自身も気分よく働けるし、周囲からも高い評価を得られる」というポジティブな発想で、より完璧に身だしなみを整えるようになったそうです。

 それから間もなくして、A氏のマネジャーへの昇格が決まりました。A氏の売り上げが目に見えて伸びていたからです。

 と、ここまで紹介すると「結果オーライ」の話です。A氏はひどく屈辱的な体験をしたけれど、それによって大きく成長したのは事実です。しかし、それはBさんのフォローがあったからで、いつでもこういくとは限りません。