最近、厚生労働省が発表したデータでは、コロナ禍が原因で解雇された人が2万5000人に上ることが分かりました。そのうち、パートや契約社員など非正規採用の人が54%を占めているそうです。もともと、働く人に占める非正規の割合は36%ですから、いかに今回、非正規の人たちが不利を被ったかが分かります。

 しかし、そういう状況に対し「企業はひどい」などと非難している場合でもありません。もはや、雇用うんぬん以前に、経営自体が危ぶまれているのです。

 日本経済新聞に「私の履歴書」という人気連載記事があります。ここに登場する有名経営者たちのなかに、人生には「あんな坂、こんな坂、まさか」という坂があることを指摘する人が結構います。

 どんな坂だろうとくじけずしっかり対応している有能な経営者にとっても、「まさか」だけは例外。彼らの想像の範囲を超えた出来事が「まさか」であり、今回のコロナ禍もそれに相当します。

 しかしながら「まさか、こんなことが起きるとは想定外だった」と振り返ってみたところで、失われたものは戻ってきません。こうした最悪の事態を、常に考えて動くことが経営陣には求められています。そして、本当は業績が好調の時にこそ、それをやっておかねばならないのです。

 おそらく今、ほとんどの経営者が、次の「まさか」について考えているはずです。となれば、今後いくら業績が回復しても、正社員を増やしていくことなどできないでしょう。

 健康機器の製造・販売を行うタニタ(東京・板橋)では、あたかも今回の「まさか」を予測していたかのような改革が2017年から始まっていました。

 創業家3代目社長の谷田千里氏はかつて「リーダーの役割は、長期的な視点で『まさか』の事態を考え、それに備えること」と述べています。そして「まさか」によって自分の代で会社を潰してしまうことがないようにと、社長就任からいろいろな施策を行っています。

 その一つが「正社員にあえて退社してもらい、業務委託契約を結び直す」というものです。つまり、正社員がフリーランスに立場を変え、タニタでの仕事を続けることになります。

 これによって、働く側は副業ができ、自分の能力次第で収入が増やせます。実際に、1年目にこのシステムを利用してフリーランスに移行した8人について、平均で手取り年収が200万円増えたそうです。

 一方で、雇う側にとっては、正社員を抱え込むというリスクを回避できます。さらに、これまでタニタしか知らなかった人たちが外で鍛えられ、人脈を構築し、それをフィードバックしてくれるという期待も持てます。