この7月、西日本を中心にした広い地域で、豪雨による甚大な被害が発生しました。被害に遭われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。

 地球温暖化の影響でしょうか。ここ数年、私たちの想像を超えた量の雨が、しかも長時間にわたって降り続くというケースが増えています。豪雨のみならず、地震や火山噴火も頻発しており、私たちは身を守るためにさらなる対策を練っていく必要がありそうです。

 今回の豪雨災害では、避難するタイミングの難しさが改めて浮き彫りになりました。自治体も最大限の努力をしたようですが、もっと救える命があったように思えてなりません。

 もっとも、自治体がすべての住人を強制的に安全な場所に運ぶなど物理的に不可能です。やはり、最後のところは個々人に自発的に動いてもらうしかないでしょう。

 ギリギリまで避難せず、命からがら助かった人が、テレビのインタビューに答えて「まさか自分の家がこんなことになるとは思ってもいなかった」と述べている様子が流されていました。

 このように、本当は危険な条件がそろっているのに「自分は大丈夫だ」と思い込んでしまう心理を、専門用語で「正常性バイアス」といいます。正常ではないことを受け入れたくない脳が、勝手に「大丈夫」と決めつけてしまうのです。

 そして、実際に大変な事態が目の前で展開されると、「こんなはずでは……」とぼうぜんとして打つべき手が打てなくなってしまいます。

 こうしたことは、ビジネスの現場でも見受けられます。

 私は、行動科学マネジメント理論に基礎を置く「BBS(Behavior Based Safety=組織行動セーフティマネジメント)」を企業に根付かせる活動をしています。BBSでは、従業員一人ひとりの行動に着目し、危険な行動をなくしていきます。

 その活動を通して、経営陣やマネジャーの期待するところと、従業員一人ひとりの意識には、スタートラインからして大きな隔たりがあると痛感しています。

 経営陣やマネジャーは、「とんでもない大事故が起こるかもしれない」ということを恐れ、それを未然に防ぎたくて、危機管理について従業員に細かく指導します。

 一方で、従業員は「自分だけは大丈夫だ」と、「起こらないこと前提」でその指導に耳を傾けているのです。

 あるメーカーの工場では、正しくヘルメットを着用することを義務づけています。しかし、実際には、頭に載せているだけに等しい状態で、金具をしっかり締めずにラインについてしまう従業員がいます。

 仲間が注意すると、「大丈夫、すぐに締めるから」という返事が返ってきますが、ラインの作業が一段落つくまで、その「すぐ」はやってきません。そのわずかな時間にも、大きな事故は起こりうるにもかかわらず……。

 これを見て、「意識が低い」と従業員を責めても解決にはなりません。誰でも正常性バイアスはかかるものなのです。

 それに、ヘルメットの金具をきちんと締めるのは面倒です。

 では、「起こらないこと前提」の人に、面倒な行動をとってもらうには、どうしたらいいのでしょうか。