石田 淳
株式会社ウィルPMインターナショナル 代表取締役社長兼最高経営責任者

 全国に展開する服飾関係の小売業A社で、本部のカスタマーセンターに顧客からのクレームが相次いで届きました。どれも、「販売スタッフが、強引に高額商品をすすめてきて不快だ」という内容でした。それらクレームは、とくに2つの店舗に集中していました。

 危機感を抱いた本部は、それぞれの店の店長を呼び出し、心当たりについて尋ねました。すると、両店長の言い分はほぼ同じようなものでした。
「会社から出された売り上げアップのための方針を、そのままスタッフに伝えただけです。でも、これからは、あまり強引にしないように言っておきます」

 つまり、徹底して「伝言係」なのです。

 このようなスタンスでいるマネジャーは、あらゆる業界で見受けられます。本人にしてみれば、中間管理職として、「上からの指令を正しく下に伝えた」つもりなのでしょう。しかし、それでいいならマネジャーは必要ありません。言葉だけ正確に伝えるなら、本部が全社員に一斉メールでも送った方が賢明です。

 あなたがマネジャーという立場にあるなら、自分の存在意義について、いつも問い直す必要があります。あなたは、会社から出された課題を部下に伝えることを期待されているのではなく、そのためにどう行動すればいいかを教えることが求められているのです。

 先ほどのA社では、たしかに「高額ラインアップ商品の販売に力を入れ、売り上げを伸ばせ」という課題がすべての店長に送られていました。それでも、ほかの店舗ではとくに問題は起きていません。というのも、具体的にどうすればいいかを現場で話し合い、店長自ら行動してみせるといった方法をとっているからです。例えば、商品の陳列法、試着した際の言葉がけ、分割支払いの提案など、強引な印象を与えずに顧客の関心を喚起する行動を店長が示しています。

 ところが、クレームの集中した2店舗では、「高額ラインナップで売り上げを伸ばせという指示が本部からきている」と伝えたにすぎません。だから、スタッフはどうしたらいいか分からずに強引な方法をとってしまったのです。

 そして、今度は「強引に売るなと言われた」と伝えようとしているわけです。きっと、スタッフは、またしてもどうしていいか分からずに、売るという行動自体をやめてしまうのではないでしょうか。