最近、「5回のなぜ」と呼ばれるメソッドをマネジメントに取り入れる企業が増えているようです。

 これは、もとはと言えば、トヨタ生産方式の生みの親とも言われる大野耐一氏が、当時の工場内で起きたトラブルについて、その原因を本質的に解明するために「なぜを5回繰り返せ」と指導したことに由来します。

 トヨタではその後、工場以外でも用いられるようになり、今では新入社員のうちから「5回のなぜ」が徹底的に教え込まれるそうです。

 トヨタでなくともどこの企業でも、部下が何か問題を起こしたら、上司は「どうしてそうなったのか」について聞いていくはずです。この時に、部下は自分なりに考えを述べますが、それが真の問題解決につながるものとは限りません。もっと重要な原因が隠されている可能性があり、それを掘り下げるために「5回のなぜ」が有効であるという理屈自体は間違っていません。

 しかし、誰もが簡単に使いこなせるメソッドでもありません。トヨタには、綿々と受け継がれた教育システムが存在するのであって、そうした下地がないままに安易に取り入れることは、かえってマネジメントを難しくします。

 実は、我が社が新たにアドバイスに取り組むことになった企業にも、このメソッドを自己流で取り入れているところがあります。時々、その現場に立ち会わせてもらうのですが、非常に望ましくない結果になることがままあります。メソッドを使いこなす下地がないままに「なぜ」を繰り返していると、必ず「他責」に行き着いてしまうのです。

 例えば、ある中堅の資材メーカーでは、20代後半の営業部員が、取引先からの受注内容の変更リクエストを反映せずに製品を発送するというミスが起きました。そこで、マネジャーが本人を呼び、「5回のなぜ」方式で聞きました。

 「なぜ、このようなミスが起きたの?」

 「それは、僕の確認が甘かったからです」

 「なぜ、そうなったの? ほかにも原因はないかな?」

 マネジャーとしては、本人の注意不足といったことではなく、何かもっと本質的な問題があれば、それを発見したかったのでしょう。何度も「なぜ」を重ねていきました。

 しかしながら、部下が最後に行き着いた答えはこれでした。

 「先方の担当者が、この変更は決定ではないと言ったんです。本当に変更する時は、もう一度連絡をくれるという話だったので、僕はいつも通りに発送しただけです」

 つまり、「責任は自分にはない」というわけです。これだったらまだ、最初の「それは、僕の確認が甘かったからです」という答えの方がましでしょう。