大手損保会社で課長代理職を勤めるA氏は、34歳になった今年、業務改革推進部に異動になりました。従業員の労働時間を短縮すべく、社内システムの見直しを図る目的で新設された部署です。

 以前は支払い業務に従事していたA氏は、「まずは書類のハンコを減らそう」と考えました。明らかに支払い要件を満たしているケースでも、実際にお客様にお金を手渡すまでには、いくつかの部署の、幾人もの偉い人たちのハンコが必要でした。そのため、急ぐお客様のために、ハンコを求めて社内を駆けずり回るという効率の悪い仕事をしなければなりませんでした。

 もっとシンプルな仕組みをつくれば、お客様にも喜んでもらえるし、担当者の負担も減ります。そこで、紙ベースでの確認作業をやめ、社内ライン上で情報を共有する方法を提案したところ、偉い人たちから思いのほか抵抗されました。彼らは、自分たちが慣れ親しんだやり方を変えたくなかったようです。

 最終的にはA氏の主張が通りましたが、その過程はなかなか大変で、20代の若い部下たちからは、「訳分かんないです」「意味ないですよ」と上層部批判が相次ぎました。

 今の若者たちは、「やる意味が分からない」ことを極端に嫌います。彼らにとって、なにより効率的であることが重要なのです。

 こうした若い世代の特性をうまく生かせば、彼らは生産性の向上に大いに寄与してくれるはずです。

 一方で、企業にとっては「効率性がすべてではない」という側面があることも、丁寧に伝えていかねばなりません。すなわち、安全性の確保ができなければ、企業は存続し得ないということです。

 社屋で火災が起きる危険性はないか。

 不審者が侵入できる隙はないか。

 工場の作業で従業員がケガをしないか。

 商品の運搬過程で事故を起こしたりしないか。

 商品そのものに異物が混入してはいないか。

 こうした可能性を一つひとつ潰していくための泥臭い作業は、生産性の向上としばしば相反します。しかし、その泥臭い作業を、不要なハンコのように削ってしまうわけにはいきません。

 ある運送会社では、トラックのドライバーに対し、安全性の高い積み荷の方法を細かく指導していました。しかし、実際にはそれに従わず「早く出発する」ことを優先しているドライバーもいることが分かっていました。

 まだ、大問題には発展していないものの、万が一、高速道路で積み荷を落下させるような事故でも起きれば、取り返しがつきません。そのため、経営者自ら朝礼などで注意喚起はしているのですが、あまりうるさいことを言って辞められてしまってはという心配もあり、強くは出られずにいました。