石田 淳
株式会社ウィルPMインターナショナル 代表取締役社長兼最高経営責任者

 行動科学マネジメントメソッドの基本的なルールの1つに「MORSの法則」があります。本連載でも何度か取り上げているのでご存じの方も多いでしょう。
M(Measurable=計測できる)
O(Observable=観察できる)
R(Reliable=信頼できる)
S(Specific=明確化されている)

 行動科学マネジメントでは、これらの要件を満たしていない限り、それを「行動」とは認めていません。つまり、エビデンスがないものをよりどころにしないということです。

 ビジネスにおけるエビデンスというと、すぐに営業上の数字などを思い浮かべるかもしれません。しかし、行動科学マネジメントが重視するエビデンスは、「営業成績をグラフにして、それに応じて給与額を決める」といった成果主義とは異なります。

 むしろ、部下育成などマネジメントの現場でこそ、エビデンスを重視します。さもなければ、マネジャーの曖昧な判断で、バイアスのかかった部下育成が行われてしまうからです。そして、それがマネジャーを苦しめる結果につながるからです。

 本来、エビデンスが最も重視される世界は、医療分野でしょう。エビデンスのない治療が施されたら患者はたまったものではありません。しかし、患者側からそのエビデンスを無視した行動に走ってしまうことがときとして起こります。

 ある有名企業の部長は、非常に高価なガン検診を毎年自費で受診していました。会社の健康診断で用いられるバリウム検査や超音波などでは、ガンの早期発見には心許ないと思ったからです。MRIやCTで全身を撮影し、胃腸は内視鏡で見てもらうという徹底ぶりでした。

 そして、ある年に早期の胆管ガンが発見されました。胆管ガンは見つけにくく、比較的、予後が悪いガンなので早期に発見できたのはラッキーでした。ところが、この部長は、せっかく早期発見できたにもかかわらず、担当医のすすめる標準医療ではなく、ある種の民間療法に頼ったのです。

 標準医療は、世界中の医療現場で「現在の時点では最も効果が得られるというエビデンスがある」ことが共有されている治療法です。だからこそ、日本の医療制度では保険が適用されています。それなのに、部長は、まだエビデンスが証明されていない怪しい「先端治療」に自分の命を託してしまったのです。

エビデンス重視の部下指導はマネジャーのためにもなる

 さて、今回ビジネスと関係のない話をしたのは、このように人間はおかしなバイアスに左右され、自分の命がかかっている場面でさえ、エビデンスベースで判断できなくなることがあると知っていただきたかったからです。