「いいマネジャーになるために何が必要でしょう」

 「私にマネジャー職が務まるのか不安でなりません」

 「マネジャーって、想像していたよりも難しい仕事ですね」

 セミナー後の懇親会などで、初めて部下を持った人や、部下育成に悩んでいる人から、こんな相談を持ちかけられることがあります。

 結論から言うと、マネジャーの資質がない人などいません。ただし、マネジャーとして適した行動がとれていない人はたくさんいます。

 職種や部下の習熟度、置かれた状況によって、マネジャーがとるべき行動の細部には違いがありますが、共通の必須事項があります。それは、現場を知り尽くすということです。

 できない人に対して「こうしてよ」と言う前に、「なぜできないのか」「どこが分からないのか」について現場感覚で理解しなくてはなりません。

 部下たちの仕事の現場をよくよく見て、そこにどんな問題が起きているのかを把握し、解決に向けた具体的行動を示すことが、マネジャーの責務です。

 それをせずに、理想を述べているマネジャーは失格。なぜなら、理想通りにいかないから現場は混乱し、苦しんでいるのですから。

 怖いのは、この努力を怠るマネジャーには現場からの声が上がらなくなることです。「あの人には理想論しか通じない」と現場があきらめてしまうのです。

 ある高級食材スーパーでは、定期的に社長の店舗視察が行われます。そのスーパーでは、商品の陳列方法はもちろんのこと、買い物カゴなどの備品の扱い、店内放送、従業員の服装や言葉遣いまで、本部が細かく決めてマニュアルにしています。それが正しくできているかどうかをチェックすることも店舗視察の大きな目的です。

 社長が訪れる日程は秘密で、抜き打ちで行われることになっているものの、現実にはどの店舗も事前に予定をキャッチしています。「社長が訪ねた時におかしなことがあったら失礼だ」という本末転倒の忖度が本部のスタッフの間で行われ、事前にそれとなく情報が流されるからです。

 ですから、その時ばかりは、どこの店長もマニュアルをしっかり守り、社長もたいてい満足そうに帰っていきます。しかし、翌日からはまた、マニュアルを無視した自分たちのやり方に戻してしまいます。「本部の言う通りにやっていたら仕事にならない」というのが店長たちの本音のようです。

 実にバカげたことだと思います。時給に直したら相当な額になるはずの社長の視察はまったく意味がないのです。

 加えて、こうしたダブルスタンダードを放置していると、すべてにおいてこのやり方が当たり前になっていきます。たとえば、従業員が店長に上げる報告なども「店長が喜ぶ理想型」をとるようになります。こういう仕事のやり方をしている限り、現場での問題は本質的に何も解決されないどころか、どんどん肥大化するのは明らかです。