井上 俊明
日経BPビジョナリー経営研究所主任研究員、日経トップリーダー編集委員

 5月30日に、東京都内で開催された第1回の「健康経営アドバイザー研修(初級)」を受講した。これは、広く中小企業の健康経営を支援するために、東京商工会議所が制度化したもの。昨年政府が定めた「日本再興戦略改定2015」にも盛り込まれ、東商は、経済産業省から委託を受けて検討を行ってきた。

 研修時間は4時間で、まず、中小企業診断士と社会保険労務士がテキストとレジメを元に合計3時間半ほど講義をした。「高まる健康経営への関心」「中小企業の現状と課題」「明日から実践するために」が内容の三本柱。受講者は予定の50人に対し70人を超えており、日頃取材などで顔見知りのこの業界の関係者も何人かお見かけした。

 講義の中では、隣席の人と話し合う時間も与えられた。研修の最後にはマークシート方式と記述式を組み合わせた効果測定が行われた。7割以上正答すると健康経営アドバイザー(初級)に認定されるのだ。老眼でマークシートをきれいに塗りつぶすのには苦労したが、幸い2週間ほど後に、東商から「認定」の知らせがあった。

想定している受講者は3パターン

 ただし、(初級)が付いていない健康経営アドバイザーになるには、まだハードルがある。今回の認定者のうち、中小企業診断士、社会保険労務士、保健師、管理栄養士などの専門家で、さらに実務研修を受講した人が「健康経営アドバイザー」として登録されるのだ。そして中小企業から支援の希望があればそこに派遣され、健康経営の認知度向上のための普及活動をするとともに、実践に役立つ具体的な助言などを行う。

 東商はこうした専門家のほか、銀行や生損保といった金融機関の担当者などを「健康経営普及者」として、中小企業への普及・啓発役と捉えている。さらに、自社で健康経営を実践する中小企業の経営者・人事労務担当者を含めた合計3者を、今回の健康経営アドバイザー(初級)の受講者として想定。重層的なアプローチで、中小企業の健康経営を支援し普及を図ろうというわけだ。

 専門家を中小企業に派遣する仕組みは、この7月をめどに構築される予定だ。2016年度は200社程度に派遣することを想定。近く実務研修も行われることになっている。

 (初級)の研修は、受講者の間口を広くする目的から、その内容は基本的な事項だったといえる。受講した専門家の中には、物足りないと思う人もいただろう。企業に入り込んで実際に健康経営の支援を手がける人たちには、経営者に健康経営の必要性を納得させられるだけの説得力とより具体的・実践的な取り組みのノウハウ、加えて人的ネットワークも求められる。

 先に挙げた専門家は、経営系と医療・健康系に大別される。健康経営の実践には文字通り両方の素養が必要だが、例えば保健師でかつ社会保険労務士といった、経営系と医療・健康系の資格を併せ持つ人はごくわずか。そのため自分の専門ではないもう1つの分野については、他の専門家と連携して業務を行うケースが大半だと思われるからだ。

 手前味噌で大変恐縮だが、かくいう私は、社会保険労務士の資格を持ち、一方で医療・健康分野の取材・執筆を25年以上積み重ねてきた。2つの素養を併せ持つ1人として、何とか時間をやりくりして実務研修を受講し、「健康経営アドバイザー」としてその普及・啓発・実践に一役買いたいと考えている。