井上 俊明
日経BPビジョナリー経営研究所主任研究員、日経トップリーダー編集委員

 この7月28、29日に長野県松本市で開催された第57回人間ドック学会。その中で、健康経営の関係者が直面している問題にヒントを与えてくれるシンポジウムが行われた。「新しい手法による大腸がん検診の展望」だ。CTコロノグラフィー、大腸カプセル内視鏡、PETがん検診など主に精密検査法を取り上げ、それぞれ専門家が現状や課題などについて語った。

 国立がん研究センターが最近公表した、2012年のがんり患数の首位は大腸がん。2014年の死亡者数でも第2位だ。ただ、り患数が死亡者数の2倍であることなどから、生存率の高いがんとされており、それだけに早期発見、早期治療の重要性は高い。

医師にも不評の内視鏡検査

 加えて、問診と便潜血(40歳以上に年1回)という体に負担を与えない検査が、科学的に死亡率減少の効果があるとされている。労働安全衛生法が定める法定健康診断に便潜血検査は含まれていないが、それほど高額ではないこともあり、職場でのがん検診の第一歩として、便潜血検査を導入する企業は少なくない。

 問題は、5%程度とされる便潜血検査で陽性となった患者の、精密検査受診率が5割前後と高くないことだ。一般的には大腸内視鏡検査を受けることになるが、前処置として腸管洗浄液を2リットル飲んでトイレに何度も通うなど、心身に負担がかかる。前処置から検査終了まで半日以上はかかり、働き盛りのビジネスパーソンにとっては、時間をやりくりするのも大変だ。検査中にポリープなどが発見されればその場で取ってしまえる一方、出血や穿孔のリスクもなくはない。

 大腸の内視鏡検査を受けた経験のある医師の中にも、「あの検査はいやだ」「面倒くさい」といった声がある。筆者自身も2回受けた経験があるが、検査中腸が引っ張られ結構な痛みがあった。女性の中には恥ずかしいという人もいるだろう。これらの問題点が、便潜血で陽性になった人を大腸内視鏡検査から遠ざけているのは間違いない。

 大腸健診の新しい手法の中には、腸管洗浄液を使わない前処置で受けられる検査もあるし、検査に伴うリスクがゼロに近いものもある。もちろん検査精度や費用などの面で、それぞれ課題を抱えてはいる。一方で便潜血検査の受検率が対象年齢層の3割程度とまだ低く、その引き上げが先決という声もあがっている。

 大腸がん検診の第一歩として便潜血検査を導入するのであれば、大腸内視鏡検査をいやがる人が一定数いるのを前提に、どこでどのような大腸検診を行っているかを把握し、陽性となった社員に情報提供できることが望ましい。また、大腸内視鏡検査の方法やリスクについてもひと通り説明できるようにしておけば、多少なりとも不安の軽減につながるはずだ。