さて、同じような環境で働いているはずのAさんとBさんの2人について、どのように感じましたか? 似たような環境で仕事をしていても、受け止め方次第でここまで変わるものかと、改めて自己の認知の大切さを痛感します。似たような状況下でも、2人の間には、状況の捉え方と仕事のコントロール感に大きな違いがありました。大きなストレスを感じずに過ごせているBさんからは、「変化には時間を要するからこそ価値のあるもの」、「今すぐではなくとも、必ず慣れる時がくる」、「楽しいだけの歩みはないが、苦労と不安だけの歩みもない」と言い換えられるような、前向きな姿勢と同時に、自分でコントロールできる範囲に対しての適切な理解と、それに向けた努力が見られました。

 Aさんはどうでしょうか? ●●すべき、●●でなくてはならないといった、すべき思考やレッテル貼り思考の傾向がありそうです。ストレス軽減のために、辛いことや苦手なことを自分から極力排除していこうとする姿勢も垣間見られます。これもストレス対処法の1つではありますが、私たちは労務を提供し対価を得ているのですから、一定の時間内で成果を出していくために相応の努力や成長が求められ、苦労が生まれるのは当然のことです。無理をせず苦労を避けていくだけの配慮は、Aさんがこの先、継続的に仕事をしていくうえであまり好ましくありません。だからといって、高いストレスを感じ続けることも好ましくありませんので、内省を促し、受け止め方の柔軟性を持てる工夫についてお話ししました。周囲の環境を変えるために、労力に見合った成果を得ることは難しいですが、自分自身の捉え方や態度はいかようにも修正し変えていくことができます。変化のない仕事はないですし、負荷やストレスのない仕事もありません。自分の中でストレスケアをできるようになると、ストレス耐性がぐんと向上します。

 さらには、自分の力でコントロールできる範囲を理解して、考えや行動を選択していくことも大切です。自分自身ではどうにもならない、自分以外の2者間の関係性について、思い悩んで腹痛や頭痛を来しても、解決にならないどころか自分の健康を壊してしまいます。悩んでもあまり変わらないことはできるだけ考え込まず、自分と他者の関係など、自分でコントロールできる直接の関係に意識を向けていきましょう。コントロールの範囲を意識してみることは仕事だけでなく、嫁と姑の関係などプライベートの課題にも有効です。

 ストレスケアについて、ストレス排除だけでなく、自らのストレス耐性を高める視点を本人にも会社にも、忘れずにいてほしいです。

石井 りな(いしい・りな) 精神科専門医、産業医 / フェミナス産業医事務所、株式会社プロヘルス 代表
石井 りな

 千葉大学医学部卒。総合病院にて研修後、精神科病院や精神科クリニックに勤務。並行してうつ病リワーク施設や企業向けメンタルヘルス支援機関を経験。精神分析・力動的精神療法、認知行動療法などの精神療法も学ぶ。診療や企業での経験を通じて、従業員の健康対策は企業の生産性を高めるうえで必要不可欠だと確信。「健やかに活き活きと仕事に挑戦し続けられる社会」を目指し、精神科産業医の立場から企業を支援したいと思い、女性医師を中心にフェミナス産業医事務所を設立。現在、多くの企業で産業医として活動する傍ら、大学で費用対効果の高いメンタルヘルス対策についての研究も行っている。
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※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。