判断する権限は会社側にある

 例えば、産業医が容認可能な就業上の配慮の例としては

 「週40時間は就労できることが前提」

 「出張や残業は免除できる」

 「時短取得や出勤日の短縮は一時的には可能だが、長期は難しいので、配慮可能期間は最大3カ月とする」

 「評価・管理ラインは変更できないが、職場での席替えは可能」

 などが挙げられますが、会社の状況に合わせて決めていくことになります。期日や内容を具体的にしておくことは、一つのポイントです。

 就業規則などには、具体的な容認範囲まで明記されていることはほとんどありません。おおまかなルールを前もって会社で決めておいて、具体的な対応や容認範囲はその都度考えていくことになります。必ずしも画一的な対応に揃える必要はありませんが、ケースによって大きく差が出ると不公平感が出てしまうのでバランスが大切です。

 対応や容認範囲を判断するために本人のそれまでの業績や人事評価、育成プランを加味することは当然あり得ます。極端な言い方をすれば、これまで会社に大きく貢献した人材、これから貢献していく可能性の高い人材、会社が欲しい人材であれば、周囲の協力や理解も得やすいですし、手厚い対応を検討することは、ビジネス上の判断として理にかなっているといえます。

 とはいえ、会社側のみで決めるのは難しいことも多いので、その際は産業医と相談しながら決めてください。産業医が会社と本人の架け橋となり、双方のギャップや意向、状況を調整します。会社の方針が明確であれば、産業医は可能な範囲で最良の選択をするお手伝いをします。そして、本人にも会社が容認できる事柄や範囲を通知して認識してもらい、その配慮の中で就労できるよう自助努力してもらう必要があります。

 それでも安定した出社や労務提供ができない場合は、適切な労務提供をしていないと判断し、再休職や退職、契約内容・形態の変更など然るべき対応を取る必要も出てくるでしょう。前回の記事にも書きましたが、休職を決めるのは「会社」であり、本人からの意向でなくても、健全な就労に適さない健康状態であると「会社」の判断で休職を発令することは妥当な対応です。

 主治医は、職場の状況まで十分に把握して診断することはなかなか難しいものです。ですから、主治医の「就労可」「復職可」という診断書は、「一般的な会社内にある何らかの仕事はできるだろう」という意味だと捉えておくといいと思います。主治医の立場から見ると、細かいことや最終的な判断は職場と産業医で調整して決めてほしいというのが本音です。

石井 りな(いしい・りな) 精神科専門医、産業医 / フェミナス産業医事務所、株式会社プロヘルス 代表
石井 りな

 千葉大学医学部卒。総合病院にて研修後、精神科病院や精神科クリニックに勤務。並行してうつ病リワーク施設や企業向けメンタルヘルス支援機関を経験。精神分析・力動的精神療法、認知行動療法などの精神療法も学ぶ。診療や企業での経験を通じて、従業員の健康対策は企業の生産性を高めるうえで必要不可欠だと確信。「健やかに活き活きと仕事に挑戦し続けられる社会」を目指し、精神科産業医の立場から企業を支援したいと思い、女性医師を中心にフェミナス産業医事務所を設立。現在、多くの企業で産業医として活動する傍ら、大学で費用対効果の高いメンタルヘルス対策についての研究も行っている。
九段下駅前ココクリニック ブログ ツイッター
フェミナス産業医事務所

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。