監修:石井 りな
精神科専門医、産業医/フェミナス産業医・労働衛生コンサルタント事務所、(株)プロヘルス代表

 5月にクリニックを開設したのを踏まえ、医療側から、現場の産業保健について見直してみました。私たちのクリニックは、体から心まで、切れ目のない診療を心がけています。

 仕事に行くと気分がふさぐ、吐き気がする、会社に行く朝どうしても起きられなくなってしまうときがある、胃が痛む、眠れない……。何らかの困難を抱えて患者さんはクリニックにいらっしゃいます。

 産業医から紹介されてくる場合には、産業医の介入によって、事例性(職場で問題になっていること)は整理され、疾病性の有無を確認するためや、治療に関する相談が目的で受診されます。

 そんなとき、医療としての立場と産業保健としての立場との“距離”に気づかされます。

管理職の影響力を痛感

 人事担当者や管理監督者が「メンタル不調」の扱いを特別にデリケートに行うあまり、「急に腫れ物に触るような扱いを受けるようになった」と患者さんが感じて困惑しているケースが多々あります。

 欠勤や遅刻といった事例性が生じ、身体症状を伴うとなれば、疾病性が疑われるわけですから、一度、受診していただくのは至極当然です。医療機関では、不眠、抑うつ、身体症状に対し、薬物治療や精神療法、生活指導などの治療を提案することができます。

 平成12年の「おたふくソース事件」のように、本人が上司へ業務上の悩みを相談しているにも関わらず、その後の社内対応や医療機関への受診勧奨がなされず、事業者側に安全配慮義務を怠った過失が認定され、多額の賠償金の支払いが命じられた事例もあります。「知らなかった」「疑わなかった」では済まされず、「おかしいな」「病気かな」と疑ったら、ラインケアやリスク管理の観点からも、適切な医療機関への受診は非常に重要です。

 また、実際に、上司が替わっただけで、なかなか回復が見られなかった7年来のうつが驚くほど改善するようなケースも少なくありません。メンタルヘルスには、個人特性、環境や外部要因、プライベートなど仕事以外の多くの要素が複合的に影響しているものですが、職場における管理監督者(上司)の影響は考えている以上にとても大きなものです。

 実際に患者さんから話を聞いていると、不調をきたす方の多くが、上司との対人関係で悩み、仕事として「何をやるか」より、その仕事を「誰とやるか」の方が心理面や健康に及ぼす影響は大きいようです。管理監督者の方は、「影響力」を再認識していただき、部下への声かけ、対応を今一度見直してみてください。