今回は、産業医面談を有効に活用するためのポイントをお伝えしたいと思います。

 皆さんの会社でも、産業医面談後には、必ず産業医が人事担当者へフィードバック(申し送り)していることと思います。もちろんこのフィードバックがとても大切なのはいうまでもありません。しかし、実はそれと同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが面談前の「申し入れ」、つまり事前の情報共有です。面談成否のカギは、「申し入れ」にかかっているといっても過言ではありません。

 ところが、実際に産業医現場の話を聞いていると、フィードバックには十分に時間を取っていても、面談前の申し入れは「氏名」「部署、役職」「簡単な面談事由(長時間労働 or メンタル or 健診有所見など)」程度で、意外と手短に済まされていることがほとんどです。なぜ、事前の情報共有が重要なのでしょうか? 簡単な必要事項のみでは何が問題なのでしょうか? 事例を挙げてみます。

<面談前>
氏名、部署、役職、勤続年数程度、会社が面談者として抽出、の情報のみ共有

<面談時>
産業医:「最近のお仕事はいかがですか?」

面談者:「まぁ、順調ですよ。忙しいには忙しいですけど」

産業医:「うまくいかずに困っていることはありませんか?」

面談者:「特に問題ありません。困っていることもないです」

 ほかの問いかけをしても、本人は「問題ありません。大丈夫です」と、終始この調子で、特に課題の抽出なく終了となりました。

<面談終了後のフィードバック時>
産業医:「面談の結果、仕事に支障を来すような健康管理上の問題などはありませんでした。特別な措置は不要で、通常勤務で構いません」

人事担当者:「実はですね……。この方、クライアントとのやりとりの際に、言葉遣いや対応が乱暴らしくて、トラブルが多くて困っていたんですよ。それで上長から産業医面談でメンタルや健康上の問題がないかどうか診てもらうよう言われていたんです。問題ないんですか……」

産業医:「そうだったのですね。それを先に把握していれば面談中にもう少し聞いてみたり、本人とのアジェンダに挙げたりできたのですが……」

人事担当者:「え? そうなんですか? 先生と話せば、いろいろ分かるのかと思っていました……」

産業医:「来月にもう一度、面談を設定いただけますか? そういった視点も含めてあらためて評価したいと思います。それと……、これからは、会社が困っている内容や面談で評価してほしいポイント、面談になった経緯について、できれば事前にもう少し詳しく教えていただけないでしょうか?」

 このやりとりを見て、どう思われますか?

 産業医の洞察不足、能力不足でしょうか? なかにはそう感じる方もいるかもしれません。実際、産業医の力量不足で本音を聞き出せなかったのかもしれません。しかし、産業医(経験豊富な精神科医であっても)は、15~30分の限られた面談時間のなかで、事前情報なしに的確な情報を聞き出し、判断まですることはなかなか困難です。職場が問題に感じている事例を知らないまま面談しても、問いかけに対して本人が「問題ありません」と答えているうちは話を深めていくことができないのです。