なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる
なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる
ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー 著 / 英治出版 / 2,700円(税込) / 400ページ

 「職場で人を成長させる最も強力な方法は?」本書は、この問いに対する回答を人材育成、組織開発の専門家であり、30年以上にわたって「大人の成長と発達」を研究してきた2人が答えたものである。

 職場で過ごす時間は思ったよりも長い。昨今は「働き方改革」も伴い、残業時間の増減につい意識が向かいがちだが、1日約8時間労働としても年間の労働時間は実に約1900時間にも及ぶ。この膨大な時間のほとんどを過ごす「組織」の中で、大人の「発達」を軸とした組織文化にフォーカスする「発達思考型組織(DDO)」の組織状態を作り出すことが冒頭の質問の答えにあたると紹介されている。本著では、このDDOに必要な要素や考え方、環境、行動について事例を交えて紹介している。

 DDOは個人と組織の潜在的な能力を開花させるプロセスと定義されている。特筆すべきは「個人の弱さ」に着目しているところである。自分の弱さを隠す仕事でフルタイム業務の多くの時間を使うよりも、それぞれが弱さから成長への転換に向けて気づき、分析し、自ら動き、支援を受けて変化していくことで能力開花につなげるというものである。

 理解はできるが、「個人の弱さ」に向き合うことは簡単ではない、と私自身は感じている。もとは他人同士が集まった会社という組織ならなおさらだ。だが、組織に比較的長く身を置く者の一人として感じていることもある。他人の寄り集まりだからこそ、「変わる意思」を自ら発信して共有して達成できることがある。本書が説くように、誰もが持っている「弱さ」を認め、それを生かし支援する環境を作ることで「大人の成長と発達」を促進することが本当に可能になるのかもしれない。

 どうやら働く期間が長くなるらしい、どうやら働く時間は短くなるらしい、そしてどうやらより曖昧で前例のない世界になるらしい、そんな変化が組織人の従来の報酬(所得)の位置づけを目に見えるものから見えないものに変えていくらしい。個人としての満足、充実、そして幸福感といった心理的な所得を求める傾向が強くなる価値観の変化が確実に起きている。こんな時だからこそ「個人の弱さ」に向き合い「大人の成長と発達」を目指すDDOを一つのキーワードとして組織に取り入れることは、簡単ではないが価値はありそうだ。

 本著には、この難しい挑戦に向き合うためのツール、「免疫マップ」も紹介されており、個人単位からでも自分の思考や行動、そして目標を振り返りながらワークできるようになっている。個人として、そして組織としてDDOに向けて変化していくための多くの示唆とヒントにあふれた「これから」を生きるビジネスパーソンすべてにおすすめする一冊である。

参考書籍

『なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践』(SB新書)
ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー 著 / 池村千秋 訳 / 英治出版 / 2,700円(税込) / 440ページ

池照 佳代(いけてる・かよ) 株式会社アイズプラス 代表取締役
池照 佳代

 約14年間、マスターフーズリミテッド、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザー等で一貫して人事を担当。2006年法政大学経営大学院在学中に同社を設立。人材・組織開発コンサルタントとして、企業向けに人材採用・教育、人事制度設計支援・コンサルティング、ダイバーシティ・女性活躍推進施策企画、エグゼクティブコーチング、EQ(感情知性)開発支援を提供している。加えて、NPO法人キーパーソン21(キャリア教育の全国普及)理事、NPO法人IC(インディペンデントコントラクター)協会理事として活動。キャリア、働き方、起業支援や講演も多数。CDA(キャリアデベロプメントアドバイザー)、EQGA公認トレーナー。SEI EQプラクティショナー・アセッサー(国際認定資格)。The Bob Pike Groupプロフェッショナルトレーナー。
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