組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす
組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす
中原 淳、中村 和彦 著 / ダイアモンド社 / 3,520円(税込) / 408ページ

 「みんな優秀なんだけど、なんだか一体感が感じられなくて」

 「ビジョンやミッションを共有したいのだけど、どう現場を巻きこめばいいのか」

 「新規事業、顧客創造がテーマだけど、具体的な動きが始まらない」

 ヒトの側面から企業経営を支援する仕事をしている私のところには、毎日のようにこのような相談が寄せられる。どれもが、今回紹介する書籍のテーマである「組織開発」がキーワードとなっている。

 そもそも「組織開発」とは何か? 本書によると、この定義には抽象的なものが多いという。実際に数多くの学者が多様な定義を展開している。本書の言葉を引用すれば「27通りの組織開発の中の定義の中に、60個も変数が存在している状況」というほどに、イメージを描きにくい。そして、もう一つ本書の言葉を借りるなら「組織開発は現場の数だけある」のである。事実、冒頭の3つの相談は、実は同じ会社の異なる部門の長から相談されたものだ。一つの会社に一つだけの課題があるのではなく、現場ごとに課題は存在しているのである。現場の数だけ存在する組織開発は、どうやら現場ごとに定義しながら進めることが最も建設的な進め方のようだ。この書籍には「現場ごとの組織開発」を一歩でも進めるためのヒントや示唆が詰まっている。

 本書でも紹介され、私自身が最も腹落ちした定義の一つが「計画的な変革で、行動科学の知識を適用し、組織を革新する力を高めるもの」である。単発で終わる取り組みにとどまらずに(経営に貢献する)計画に沿った継続的な取り組みとすることによって、個人の人材開発と組織の行動の知識を生かして組織を「ありたい姿」に革新させていく一連のプロセスのことを指す。

 組織の現場にはどこでも課題があり、組織開発的な取り組みは起こっている。だが従来は、ここにアカデミックな知識や理論が適用されると考えずに、解決できそうな人に依存して力ずくで解決してしまう、あるいはハウツーをグーグルで探し出して対症療法を繰り返し、解決した風に見せているものが多いのも事実だ。これまでの組織開発は、現場の「実務ニーズ」に応えることを選択し、「アカデミックで体系的な整理」を後回しにしてきた。

 現場で仕事をする人事または人材育成担当者は、冒頭の相談のように現場の数だけ課題が発生する中で、組織開発の歴史や他社事例、そして他理論の応用から何か解決の糸口が見つけられないか、と感じることがあっただろう。そんな中、この書籍は各現場での目的や真因探究を目指し、組織開発の思想的背景や発展の歴史、他社事例が分かりやすく紹介されている。組織開発担当者として忘れてはならない姿勢や、仕事のあり方として「倫理観」についても言及されており、考えさせられる視点を与えてくれる。

 現在の経営環境では多様な顧客に対応する多様な人材マネジメントが求められ、組織開発への注目はますます高まっている。組織開発という視点や考え方、そして実践が日本企業に定着していくためには、組織開発の本質を理解する実践(担当)者が増えることがキーとなる。この分厚い書籍は、日々現場で組織開発を実践する人事・人材育成担当者、そして組織開発実践者が自らの気づきと開発を可能にする教科書的な一冊だ。

参考書籍

対話型組織開発――その理論的系譜と実践
ジャルヴァース・R・ブッシュ、ロバート・J・マーシャク 編 / 英治出版 / 5,500円(税込) / 648ページ

池照 佳代(いけてる・かよ) 株式会社アイズプラス 代表取締役
池照 佳代

 約14年間、マスターフーズリミテッド、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザー等で一貫して人事を担当。2006年法政大学経営大学院在学中に同社を設立。人材・組織開発コンサルタントとして、企業向けに人材採用・教育、人事制度設計支援・コンサルティング、ダイバーシティ・女性活躍推進施策企画、エグゼクティブコーチング、EQ(感情知性)開発支援を提供している。加えて、NPO法人キーパーソン21(キャリア教育の全国普及)理事、NPO法人IC(インディペンデントコントラクター)協会理事として活動。キャリア、働き方、起業支援や講演も多数。CDA(キャリアデベロプメントアドバイザー)、EQGA公認トレーナー。SEI EQプラクティショナー・アセッサー(国際認定資格)。The Bob Pike Groupプロフェッショナルトレーナー。
●アイズプラス https://is-plus.jp/
●ブログ http://isplus1.hatenablog.com/
●フェイスブック @iketeruisplus

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。