人材トランスフォーメーション 新種の人材を獲得せよ!育てよ!
人材トランスフォーメーション 新種の人材を獲得せよ!育てよ!
柴田 彰 著 / 日本能率協会マネジメントセンター / 1,870円(税込) / 220ページ

 過去の人材採用の場面では、経営者や事業リーダーに対して「該当の空ポジションに、競合他社にいる人なら“誰を”引っ張ってきますか?」と質問していた。この質問に明快に答えてくださった方は、私自身の肌感覚で約20%である。多くの方は「優秀な人が欲しい」という返答だった。つまり、残念ながら自社内で明確な人材像が定義されておらず、またベンチマークできる人材のイメージがなかったのだ。だが現在、すでにこのような質問はもはやできなくなってきている。なぜなら、現在の日本企業の多くが欲しているのは「自社にも競合他社にも、まだいないDX人材」だからである。

 DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、ウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン教授が提唱した概念で「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良くする」というものだ。提唱から10年以上たった現在、多くの日本企業ではDXという言葉が一種のバズワードとなっている。DXを実現させる人材のみならず、先の見えない将来を切り開く経営者、そして新たな事業を生み出す事業創造を担う人材などの確保が、多くの日本企業にとって急務となっている。本書は、企業にとってこれまでにない人材変革を起こすための指南書である。

 本書にもあるように、企業にとって人材をトランスフォーム(変革)するということは、欲しい人材を新たに外から採用する、あるいは社内の人材を育成し直すことを意味する。いずれにしても、キーとなるのは「人材像の明確化」である。著者が所属する米コーン・フェリーは、外部のコンサルティング会社という立場から採用を中心に関わり、彼らがクライアントである企業との共通言語を探り、社内に定着させる過程から「人材像の明確化」を図っている。

 大きな環境変化に対応できる経営人材、事業を創造する人材、そしてDXを実現する人材のいずれも、多くの日本企業では“新種の人材”にあたる。むろん、外部からの採用も、そして内部からの育成や登用も簡単にできるわけではない。だからこそ、これら“新種”に関してはこれまでの既成概念を取り払い、ストレッチした視点をもって必要人材の特徴を示すための枠組みを定義することが不可欠だ。その際に必要なのが、該当職務におけるコンピテンシーを明示することである。コンピテンシーは、職務に高い成果をもたらす行動と思考特性を表し、人材像の明確化では重要な要素である。本書では、時代とともに期待されるコンピテンシーの変化や、その定義も紹介しており、自社で定義づけをする際に活用できる。

 もう一つ、日本企業への興味深い示唆がある。社内で“新種の人材”についての議論を経て、自社にとっては“少々とがった人材”が紹介されたとしても、採用に至らなかった事例だ。これは私自身も経験がある。変化を起こそうとしているにもかかわらず、いざ変化を起こす可能性の高い人材を目の当たりにすると自社の組織で活躍できるイメージが持てないのである。変化をもたらす人材を欲しているならば、そのような人材が活躍し、最大限に力を発揮できる組織と風土づくりも必要だ。そのためにも、これまでに見たことのない世界を創るには、どんな特性や能力を持った人材を集めることが必要か、徹底的に向き合うことが必須である。人事・人材育成担当だけでなく、“まだ見ぬ世界を人材とともに創る”と決めた方に一読をお勧めする。

参考書籍

エンゲージメント経営
柴田 彰 著 / 日本能率協会マネジメントセンター / 1,870円(税込) / 264ページ

池照 佳代(いけてる・かよ) 株式会社アイズプラス 代表取締役
池照 佳代

 約14年間、マスターフーズリミテッド、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザー等で一貫して人事を担当。2006年法政大学経営大学院在学中に同社を設立。人材・組織開発コンサルタントとして、企業向けに人材採用・教育、人事制度設計支援・コンサルティング、ダイバーシティ・女性活躍推進施策企画、エグゼクティブコーチング、EQ(感情知性)開発支援を提供している。加えて、NPO法人キーパーソン21(キャリア教育の全国普及)理事、NPO法人IC(インディペンデントコントラクター)協会理事として活動。キャリア、働き方、起業支援や講演も多数。CDA(キャリアデベロプメントアドバイザー)、EQGA公認トレーナー。SEI EQプラクティショナー・アセッサー(国際認定資格)。The Bob Pike Groupプロフェッショナルトレーナー。
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※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。