女性の視点で見直す人材育成――だれもが働きやすい「最高の職場」をつくる
女性の視点で見直す人材育成――だれもが働きやすい「最高の職場」をつくる
中原 淳、トーマツイノベーション 著 / ダイヤモンド社 / 2,160円(税込) / 216ページ

 「『そこそこでいいんです』と女性社員から言われ、どう対応していいか困っています」という相談を受けた。この方は日系メーカーで女性を含む数名の部下をマネジメントする管理職歴10年以上の男性、ベテラン上司である。

 ダイバーシティ・女性活躍推進、働き方改革と会社が打ち出す、女性社員に向けた「贅沢な」人材育成施策には彼自身も多少の違和感を感じながら、世の中の流れを見れば反対する理由は見つからなかった。実際にこの女性部下は非常に優秀であり、数年後には管理職ポジションへ推薦することも考えていた。彼女のキャリアのためになればと研修にも積極的に参加し、彼女を部内初の管理職にすべく努力をしてきたつもりだ。研修期間が残り1カ月となり、“女性社員と今後のキャリアについて話す”面談時に、女性社員から言われたのが冒頭の発言である。

 これまでも組織にいる女性社員は男性社員と同じように仕事をして、時に長い時間を一緒に過ごし、そしてそれなりに活躍もしてきたはずだ。多くの男性管理職は、そう感じている。それがなぜ今、急に“女性”に集中した施策になるのか。

 2015年に女性活躍推進法が制定されて以来、多くの日本企業でこうした施策に対応するプログラムを担当しているが、どの回にも同様の違和感を抱えた現役管理職が多く参加する。口々に「なぜ女性だけ?」「本人たちは昇進したくないと言っているし」「こんなに制度が整っているのに、何がこれ以上必要なのか?」……と吐露される。

 多くの日本企業にあるこのような“戸惑い”に対し、現場で対応に向けたヒントを紹介しているのが本書である。本書は、“女性”を切り口として企業の人材育成への示唆を膨大なデータと事例で示している。

 切り口としては“女性の視点で見直す”であるが、女性という属性は組織内のマイノリティ(少数派)のうち最もメジャーな層だ。女性の育成と働きやすさを見いだすことは、これからますます多様化する職場、つまり、他のマイノリティも含む多くの社員に向けた人材育成施策を考えるヒントとなりえる。

 これまで日本企業では当たり前のメジャー層であった「日本人・男性・正社員」からは見えにくい(もしくは見ようとしなかった)視点だ。また、日本で働く女性社員2500名以上の定量データがある。スタッフ、リーダー、マネジャー、ワーママ期と各キャリステージの定性データからの事例は、従来の人材育成や働き方を見直し、現場マネジメントにおいて対話の糸口となる。

 優秀な女性部下のキャリアを真剣に考えていた前述のベテラン上司は、「そこそこでいいんです」という発言にどう対応するだろうか。

 私のワークショップの中でも他部門のマネジャーとの議論や、過去の事例を共有する時間をとるが、まずは彼自身がこの女性社員と向き合い、彼女の置かれた状況や「そこそこ」の真の意味を対話しながら見いだす必要があるだろう。その際、本書を薦めたいと思っている。

 人事・人材育成担当者のみならず、働く人が働きやすく、成長を感じる職場をつくることに興味のあるマネジャーの手元に持っていてほしい一冊である。 

参考書籍

フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術
中原 淳 著 / PHP研究所 / 940円(税込) / 246ページ

池照 佳代(いけてる・かよ) 株式会社アイズプラス 代表取締役
池照 佳代

 約14年間、マスターフーズリミテッド、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザー等で一貫して人事を担当。2006年法政大学経営大学院在学中に同社を設立。人材・組織開発コンサルタントとして、企業向けに人材採用・教育、人事制度設計支援・コンサルティング、ダイバーシティ・女性活躍推進施策企画、エグゼクティブコーチング、EQ(感情知性)開発支援を提供している。加えて、NPO法人キーパーソン21(キャリア教育の全国普及)理事、NPO法人IC(インディペンデントコントラクター)協会理事として活動。キャリア、働き方、起業支援や講演も多数。CDA(キャリアデベロプメントアドバイザー)、EQGA公認トレーナー。SEI EQプラクティショナー・アセッサー(国際認定資格)。The Bob Pike Groupプロフェッショナルトレーナー。
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※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。