タルピオット イスラエル式エリート養成プログラム
タルピオット イスラエル式エリート養成プログラム
石倉 洋子、ナアマ・ルベンチック 著 / 日本経済新聞出版社 / 1,760円(税込) / 208ページ

 1973年、シリアとエジプトがイスラエルを攻撃したことから勃発した第4次中東戦争では、イスラエル国防軍はそれまでの不敗を保ち勝利した。だが、実際にはわずか20日間で約2700人もの戦死者と多くの負傷者を出し、軍の威信は大きく失われたという。ここに危機感を持ったヘブライ大学の2人の教授の進言によって創設されたのが「タルピオット」という、テクノロジーリーダーの若手育成プログラムである。

 1948年にユダヤ人の国家として戦争のさなかに産声を上げ、戦争とテロが続く歴史から世界中に移民となって生き延びた彼らの多くが、現在はイスラエルに戻って生活している。もともと天然資源の少ない小国であるイスラエルにとって唯一の資源は人であり頭脳であるという認識が高く、多くの人が高い科学力と技術力を身につけ、現在は世界トップレベルのハイテク立国となっている。このハイテク産業を牽引するのがここ数年は毎年1000社以上が産声を上げるスタートアップ企業であり、この起業家たちの多くが本書で紹介されている「タルピオット」出身者だ。つまり、イスラエルは国防戦略として立ち上げたテクノロジーリーダー育成プログラムによってイノベーション人材を育て上げ、同時に世界有数の起業家育成を両立させているのだ。

 著者は経営学者であり多くの企業で経営アドバイザーなどを務める石倉洋子氏であり、今回はタルピオット出身の起業家らとともに本書を出している。著者らは、現在の日本が課題としているイノベーションとスタートアップの鍵はイスラエルにあるとし、タルピオットプログラムの仕組みを現場人材のインタビューを交えて紹介する。本書の後半には、イスラエル起業家らといかにして協働するかに焦点を当てた具体的なアドバイスが続く。もちろん、そもそも徴兵制の有無や軍隊での精鋭教育など、日本とイスラエルには若者を国として育成する前提としての違いがある。だが、未来に危機感を感じたことから長期的な視点に立ち、意図をもって育成する仕組みづくりや文化づくりは参考になる部分が多くある。

 「失敗を許容する」「正しい決定よりも早い決定」を重視する、そして「言われた通り」にはやらない――これらはタルピオットプログラムに脈々と流れる思想の一部であり、息づいた文化である。同時にこれらの点は、私たち日本人が現在自覚はしているものの足りない部分でもある。足りない部分を戦略的に徹底して育成するのか、足りないと部分を認めて「持っている」ところと協働するのか、はたまたこれまでの通り「すごい!」と評論家のように言うだけなのか――。何かしら行動を始めることが今後の日本の人材、事業、組織変革への一歩になる気がしてならない。人事・人材育成担当者だけでなく「これから」に課題意識をもつ多くの人に手に取ってほしい一冊である。

参考書籍

90日で成果をだす DX(デジタルトランスフォーメーション)入門
須藤 憲司 著 / 日本経済新聞出版 / 1,760円(税込) / 184ページ

池照 佳代(いけてる・かよ) 株式会社アイズプラス 代表取締役
池照 佳代

 約14年間、マスターフーズリミテッド、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザー等で一貫して人事を担当。2006年法政大学経営大学院在学中に同社を設立。人材・組織開発コンサルタントとして、企業向けに人材採用・教育、人事制度設計支援・コンサルティング、ダイバーシティ・女性活躍推進施策企画、エグゼクティブコーチング、EQ(感情知性)開発支援を提供している。加えて、NPO法人キーパーソン21(キャリア教育の全国普及)理事、NPO法人IC(インディペンデントコントラクター)協会理事として活動。キャリア、働き方、起業支援や講演も多数。CDA(キャリアデベロプメントアドバイザー)、EQGA公認トレーナー。SEI EQプラクティショナー・アセッサー(国際認定資格)。The Bob Pike Groupプロフェッショナルトレーナー。
●アイズプラス https://is-plus.jp/
●ブログ http://isplus1.hatenablog.com/
●フェイスブック @iketeruisplus

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。